もくじ
世界の6割のグローバル企業はイギリスにオフィスを構えていると言われるほどで、ビジネスパーソンであればイギリスに出張に行く機会も多いのではないでしょうか。この記事ではイギリスへ渡航予定の方向けに、イギリスの治安について筆者の体験を交えながら解説していきます。
イギリスの治安状況
イギリスに住んだことのある筆者は、イギリスの治安は悪くなく、昼夜を通して割と安全というイメージがありました。しかし在イギリス大使館のサイトでは、近年の英国の治安の様子をこのように書いています。
「英国の治安は比較的良好というイメージがありますが、2020年に警察に報告のあっ たイングランド及びウェールズにおける犯罪の総数は約560万件であり、これは日本と比較すると、2020年の犯罪総数(刑法犯総数)の約9.1倍の数字に相当します。 また、スコットランドにおける犯罪総数は、2020年度24.6万件であり、前年度の横ばいで推移しています。 ロンドン内に限っても、ロンドン警視庁が公表している犯罪統計資料によれば、過去数年ロンドンにおける犯罪発生件数はおおむね右肩上がり傾向が続いていましたが、新型コロナウイルス感染症による影響からか、2020年における犯罪発生件数は減少となっています。英国政府の治安対策の強化が報じられてはいますが、引き続き、犯罪被害に巻き込まれないように注意が必要です。」
安全の手引き ~安全な英国滞在のために~2020年2月 在英国日本国大使館、在エディンバラ日本国総領事館
100016937.pdf (emb-japan.go.jp)
日本は治安の良い国として世界でも有名です。日本よりも犯罪数が多い国は危ないというよりは、日本人が日本の外に出た時に、どのように身を守るかを心得ていないことが危ないのだと感じます。イギリスの主要都市の犯罪の傾向と、犯罪の種類とその対策について見ていきましょう。
イギリスで注意したほうがよい地域
イギリスの主要都市の治安について、2021年の犯罪件数と犯罪率からまとめました。犯罪件数は1年間に起こった犯罪の件数で、犯罪率は人口1,000人当たりで被害に遭った人数を表しています。
犯罪率を参考にすると人口対犯罪件数の比較がしやすいのですが、ロンドンの中心部やグラスゴーのような場所ではツーリストが犯罪に遭う可能性が多く、犯罪率だけでは正確な状況が分からないため、犯罪件数を参考にしました。
ロンドン

イギリス第1の都市はロンドンで、人口は9,300万人です。イギリスに移住した3割のヨーロッパ人(1,000万人)はロンドンに住んでおり、ここで話される言語は300言語と言われるほど、多種多様な人々が暮らしています。ビジネスや観光で訪れる人々も含めると、この600平方メートルの街で息をする人の数は更に大きく膨らむ事でしょう。
2021年、ロンドンで最も犯罪件数が多かったエリアはビッグベンのあるWestminster(ウェストミンスター)で、49,381件でした。近年はナイフを使った脅迫犯罪が急激に増加しています。続いて貧しいエリアと言われるTower Hamlets (タワーハムレッツ)が31,621件、Southwark (サウスウォーク) 31,379件、Hackney(ハックニー) 29,610件、Camden (カムデン) 28,855件です。

その他のエリアの犯罪件数、犯罪の種類の統計がこちらのサイトで確認できます。
Greater London Crime and Safety Statistics | CrimeRate
バーミンガム

West MidlandsエリアにあるBirmingham、バーミンガムはイギリスで2番目に人口の多い都市です。人口は1,050万人、ロンドンの約11%です。
バーミンガムはイギリスで最も犯罪の多い都市で、2021年の犯罪率は130、住民1,000人中130人が被害に遭っています。また、42%の住民が「昼夜を問わず危険を感じる」と答えたという統計もあり、住民の不安は深刻です。最も多い犯罪は自転車窃盗、暴力犯罪、続いて車両強盗です。
マンチェスター

Manchester、マンチェスターの人口は260万人で、イギリス北部の首都と言われていますが、そのロンドンの約3%です。マンチェスターの街はCity of Manchesterで、人口は53万人。比較的安全な地域だと言われています。マンチェスターの犯罪でダントツに多いのはAntisocial behaviour (反社会的行動)と呼ばれる、酔っ払いなどによる犯罪です。
ここで避けた方が良いエリアはMoss Side(モスサイド)、Longsight(ロングサイト)、Hulme(ハルム)です。詳細はマンチェスターで発生した犯罪の種類と場所が地図で確認できるこのサイトをご確認ください。

ここで避けた方が良いエリアはMoss Side(モスサイド)、Longsight(ロングサイト)、Hulme(ハルム)です。詳細はマンチェスターで発生した犯罪の種類と場所が地図で確認できるこのサイトをご確認ください。
CrimeMapping.com – Helping You Build a Safer Community
グラスゴー

スコットランドの大都市、グラスゴー (Glasgow)。人口は168万人、ロンドンの55分の1で大きな街ではありませんが、スコットランドに行く旅行者は必ずグラスゴーを通過することでしょう。
グラスゴーは犯罪の多い都市として知られていましたが、近年は犯罪率が減少しています。スコットランドで最も犯罪が多いのはDundee(ダンディー)で、犯罪件数は10,237件、犯罪率は68.8です。続くグラスゴーの犯罪件数は43,331件、犯罪率は68.2%です。
London Population 2022 (Demographics, Maps, Graphs) (worldpopulationreview.com)
The Safest And Most Dangerous Places To Live In London (rentlondonflat.com)
Birmingham Crime and Safety Statistics | CrimeRate
Scotland’s most crime-ridden areas: where does your council sit? – Scottish Daily Express
イギリスで巻き込まれやすい犯罪やトラブル
イギリスとスコットランドで近年発生している犯罪とその対策について、在英国日本国大使館、在エディンバラ日本国総領事館が「安全の手引き」を2022年2月に発行しました。

ここではその手引きから10の主要犯罪とその対策について抜粋してまとめました。詳しい事例や対策についてはこちらの資料をご確認ください。100016937.pdf (emb-japan.go.jp)
- スリ・置き引き

英国ではクレジット、またはデビッドカードによる支払いが一般的です。しかし、日本人は多額の現金を持ち歩く傾向があることで知られているために、犯罪の標的になりがちです。スリや置き引き犯罪は場所を選ぶことなく報告されていますが、特に混雑した地下鉄やバスの車内、デパート、観光スポット、パブやレストランでの被害が多発しています。ATMで現金を引き出している間に声をかけられて現金とカードを盗まれるケースも発生しています。
- 路上強盗・ひったくり
路上強盗やひったくりは夜間や昼間でも人気のない通りでの被害例が圧倒的に多く発生しています。犯人は駅の出口などから人気のない場所まで被害者を尾行して犯行に及びます。ナイフなどの凶器を使った脅迫、複数名での恐喝、あるいは強奪などが報告されています。後ろから来たバイク・電動スクーターが追い越し際にスマートフォンを奪い去る事案が発生しているので、昼間でも歩道を歩く際は建物側を歩くことが推奨されています。また、日照時間が短くなる冬場や閑静な住宅街では十分な注意が必要です。
- 偽警察官詐欺
警察の制服を着た人物による詐欺被害が発生しています。警察官が財布やクレジットカードの提示を路上で求めることはないということも覚えていきましょう。もしも偽警官かどうか見分けがつかない場合は警察署に同行することを主張しましょう。また、見知らぬ人物が近づいてきた場合で何か不審だと感じたら、関わらずに立ち去ることが賢明です。
- オンライン詐欺
見知らぬ人から届いたメールの内容やSNSで知り合った人物と連絡を取り合い、長い場合は1年以上に渡って高額や仮想通貨のお金を騙しとられる事案が発生しています。このような場合、送金したお金を取り戻すことは不可能ですので、被害防止のためには最初から相手にしないことが重要です。
- 空き巣
空き巣の被害に遭わない為に最も重要なことは、空き巣に狙われやすい状況を作らないことです。侵入に時間が掛かりそうな家は諦めると言われますので、日頃から家族でドアや窓の施錠を習慣づけることは言うまでもなく、可能な範囲で必要な防犯対策を講じるようにしてください。特にハーフターム、夏期休暇、クリスマス・年末年始休暇等で長期に自宅を留守にする場合は注意が必要です。
- 自動車関連の窃盗・強盗・車上荒らし
車両本体の窃盗だけでなく、車内に置いた物品や装備品のみが盗まれる車上荒らしはイギリスで一般的な犯罪です。また、信号待ちで停車中に開いた窓から手を入れてきて荷物を奪われたケースがあるため、窓を開けて運転する場合は、開ける幅を必要最低限としましょう。また、外から見える場所に荷物は置かないことも重要です。駐車中もバッグや上着が見えないようにして被害を防止しましょう。
- 性犯罪
性犯罪は、その犯罪の性質から被害届を出さないケースも相当数あると言われる中でも 多数の事件が発生しています。女性の夜間の一人歩きやよく知らない人からの言葉巧みな 誘いには特に注意が必要です。
- 薬物関連犯罪
英国においては、マリファナ、ヘロイン、コカイン、覚せい剤、MDMA (錠剤型で、別名 「エクスタシー」等と呼ばれるもの)といった薬物犯罪が社会問題化しているため、税関や警察ではその取締りを強化しています。違反者は法律に基づき厳罰に処されます。過去に薬物使用で警察当局に逮捕された日本人の事例もあります。
- 子どもに絡む犯罪
英国においては、子どもだけで留守番をさせる行為が「児童虐待」に当たると規定した法律はありません。しかし万が一、子どもだけの留守番中に危害を加えられたり、怪我をしたりするような状況となれば、その負傷度合いの大小に関係なく「児童虐待」に該当するとの理由で保護者が罪に問われる可能性があります。
- その他
英国では武器の携行には規制が設けられており、催涙スプレー、スタンガン、特殊警棒、メ リケンサック、ナイフ等の無許可携帯はすべて違法です。知らずにこれらを護身用として携行し、空港などで逮捕された日本人の事例もあります。

街を歩くときは、あまりキョロキョロして観光客と思われないようにする…という防犯方法をよく聞きますが、服装や行動、言葉の訛りで現地に住んでいるか住んでいないかがわかるものです。
回りをよく見て、怪しい行動をしている人、自分に視線を注いでいる人、何度もこちらを振り返る人に注意することが防犯になります。悪い事を企んでいる人を見つけ、悪だくみがばれているぞ、という態度を見せることが、私の護身術です。
私がイギリスで実際に経験したトラブル


続いて筆者が実際にイギリスで遭遇したトラブルをご紹介していきます
ケース1:付き纏い
15年前の当時、ロンドンで一番治安の悪い地域での付き纏い私は南ロンドンのBrixton駅を出てすぐ左手にあるElectric Avenueの安いマンションに住んでいました。
ロンドンのフリーペーパーにフリーランスライターとして記事を書き、夜はウェイトレスとして働く生活を2年半続けました。Electric Avenueは、昼間はアフリカ食材や物産品を売る賑やかな通りですが、夜になると地域の公園などに暮らすホームレスが通りを徘徊し、私服警官との捕物劇が見られることも頻繁にありました。
アルコールと薬物の売られる通りでもあり、夕方の駅周辺では「何か欲しいものはないか」と付きまとわれることがありました。また、地下鉄の終電の後の時間でも開いているコンビニに行く途中に襲われた友人もいました。
ここ10年でBrixtonは発展し、治安も驚くほど改善されたようで、危険なエリアトップ40にも入っていませんでした。しかしイギリスの国の中には当時のBrixtonのような場所がまだ残っていることでしょう。そういう場所に入った時どうやって身を守れるのか、常に準備しておくと良いと思います。
ケース2:サブカルチャーの発展するエリアで感じた危険性
夜にウェイトレスとして働いていたカムデンタウンにはたくさんのバーやレストランがあり、平日でも夜中までお店が空いていました。週末になると、お店の中だけでなく通りまで人が溢れてくるほどの賑わいでした。その中でつかみ合いの喧嘩や、酔っ払いが大声をあげるような場面によく出くわし、危険だと思ったことが何度かありました。
その場合はその人と距離を取る、礼儀正しくするが関わらない、大きなグループにくっついてその場を離れる、という護身術を取りました。カムデンのように賑やかで酔っ払いに絡まれる危険性があるのは、ロンドンの中心部であるSoho、Leicester square, Covent Gardenなどがあります。東ロンドンではグラフィティーや古道具品で知られるHackneyが類似地区に当たります。先ほどロンドンについての記事で、CamdenとHackneyが危険地区4位、5位になっていましたが、なるほどと思いました。
ケース3:夜中のバスの移動は安全?
帰りは24時間運営している2階建てのロンドンバスに乗って深夜に移動しましたが、危険な目に遭ったことはありませんでした。もちろん偶然、ラッキーという事もありますが、当時の友人や同僚も、移動中に犯罪に巻き込まれることは極々稀、と考えて良いと思います。
夜中に1人で歩くよりは2人以上で歩く方が安全というのは常識ですが、いつもできるわけではないと思うので、常識と自分の判断力を頼りに行動する事が大事だと思います。
まとめ

私は世界50か国を旅行し、現在は南アフリカと日本に住んでいるのですが、どの国にいる時も以下の事を四六時中守るようにしています。
私は世界50か国を旅行し、現在は南アフリカと日本に住んでいるのですが、どの国にいる時も以下の事を四六時中守るようにしています。
- その街の危険エリアを知る
ホテルのスタッフや現地に住む人に危険なエリア、気を付けた方が良いことなどを聞いておきましょう。
- 携帯品と保管品の管理
いつも同じではなく、ケースバイケースで最も安全な方法を選びましょう。
- 貴重品を携帯するためのバッグの形、持ち方
手提げバッグは避け、できるだけ肩掛けタイプを持ちましょう。リュックの場合は、人込みでは前掛けしましょう。スーツケースのような大きな荷物も、常に身体の一部で触れておく事を心掛けると良いです。
- 気を抜かない
常に自分の携帯品と周囲に注意を張り巡らせることが気を抜かないことです。人を見つめては失礼、目が合ってしまったら気まずい、と私たち日本人は思いがちです。しかし、人と目が合わないようにしていては周囲に注意を払うことができず、犯罪に巻き込まれる可能性が高くなります。
- 気を抜いていないことを態度でアピール
周囲を見ない、人の目を見ない、というのは気が弱くも見えるので、標的にされる可能性を高めます。目が合ったら頷く、微笑む、軽く手を挙げる、というのは、日本人以外の文化で普通に交わされる、当たり前のコミュニケーションです。他の人がやっているのに気づき、真似してみることをお勧めします。
①については日本語で書いてあるサイトをオンラインで読むだけでなく、現地で人に聞いて情報を収集することが大切です。
③と④については日本の日常とは違った態度で過ごす事が求められるという事ですが、これもイギリスに行くことを不安に思っている方にご参考いただければ光栄です。
安全で楽しい旅行をお祈りしております。
海外出張時のコミュニケーションが心配な方へ
不慣れな土地に行く場合は、アテンドを依頼することおすすめです。OCiETeでは通訳者による現地アテンドも行っております。
「現地アテンドの見積もりがほしい」
「海外展示会の商談時だけ通訳を依頼したい」
「出張先の情勢をリサーチしてほしい」など
海外出張におけるサポートをご希望の場合はお気軽にお問い合わせください。

安全なビジネス旅行をするために、またはイギリスの文化と伝統や美術、音楽を楽しむためにイギリスを訪れる方のための安全情報と対策をご紹介します。