もくじ
日本企業の海外進出は、アメリカ・中国の二大大国からエマージング・マーケットへと推移しています。業務形態も会社設立ではなく営業代行や販売代理店など拠点を設けずにパートナー会社とビジネスをするスタイルへと移行している傾向が見られます。
急速に変化する、日本企業の海外進出状況
現在、日本の人口減少による市場の縮小、経済の弱小化により海外展開をするに日本の企業が増加しています。これまでは海外進出と言えば、経済力が強く市場の大きなアメリカや中国に子会社を設立することが主流でしたが、近年はそれが大きく変化しています。
近年は、営業代行、販売代理店を探す販路拡大や、ECモール出品代行など、拠点を設けずに海外へ進出する方法が模索されています。拠点を置かない事で資本金を節約することができ、現地のノウハウに精通するパートナーを作ることで効率化を図ることが狙いです。
その中で注目されているのが、エマージング・マーケットです。
エマージング・マーケットとは?
近年急速に成長しており、貿易や投資の対象として有望な国の市場のことの総称で、日本では新興国とも呼ばれます。具体的には中南米(メキシコ、チリ、パナマ、ペルーなど)、東欧(ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国、スロバキアなど)そして東南アジア(ASEAN諸国)がエマージングマーケットとして注目されています。
日本企業は地理的に近いこともありASEANへの進出を最初に考える企業も多いのではないでしょうか。海外進出する日本企業の現地法人は、ASEAN国進出の割合が10年連続増加しています。そのASEAN市場は、製造拠点と消費市場として世界から注目されています。総人口6.3億人、若年齢層の高い労働力に加え、中間層の台頭も予測され、一定の購買力を備えた所得層が着実に拡大していくと予想されるASEAN諸国で成功する秘訣とは、どのようなものでしょうか。
ASEAN10か国の近年の成長
近年、人口約6.3億人、名目GDPは3.3兆ドル(2021年)を有するASEANの経済は著しい高成長を遂げています。ASEAN10か国というのは、東南アジアから日本、中国、韓国の経済大国を除外した10か国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、 シンガポール、タイ、ベトナム)を指します。東南アジアの5大経済国はシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピンですが、近年はベトナムがそれに並んで注目されるようになりました。
ASEAN諸国は過去10年間でGDPの規模が約2倍へと拡大しました。IMF予想によると、今後5年間においても4.5%~5%の成長が見込まれています。GDPが高い国は、順にインドネシア(35.5%)、タイ(15.1%)、シンガポール(11.9%)です。ちなみにインドネシアのGDPと比較すると、日本のGDPは約4倍、中国は約14倍、韓国は約1.5倍です。
ASEANの貿易
ASEANは輸出、輸入とも、ASEAN域内が20%前後を占めています。これは、2015年に発足したASEAN経済共同体(AEC)の発足により、関税の撤廃、人の移動の自由化がされたことが大きく影響しています。ASEAN第2位の貿易国は輸出、輸入ともに中国です。日本は現状、輸出入のどちらを取っても地理的な利点を生かした貿易ができているとは言えないようです。
2021年は日本の対ASEAN直接投資は前年比58%増の3兆1,000億円でした。企業だけでなく、国としてもASEANとの関係を深めていく狙いが見て取れます。(JETRO-2022年5月)
ASEAN諸国の動向
販路拡大先としての海外進出では、市場規模や市場の成長性が重要なポイントになります。成長性の低い市場では成功しても見返りが少ないだけでなく、競争率も高くなるためです。自社の製品、サービスの顧客層をベースにして市場調査をすることが販路先選びの成功の分かれ道と言えます。どの製品・サービスが、どの国で成長しているのか?カテゴリーごとにASEAN諸国の動向をまとめました。
販路拡大
販路拡大の指標となるのは、人口、GDP、経済成長率です。その他、平均年齢やエンゲル係数、中間層・富裕層の増加率、耐久消費財普及率、なども消費市場の拡大の目安として見ることができます。「生活に余裕が出て嗜好品や家電が売れるようになる国」と判断される一人当たりのGDPの目安は、3,000ドルと言われています。タイではこの一人当たりGDPが7,000ドルを超え、本格的に自動車が普及し始めると期待されています。ここでは、ASEAN諸国の人口第1~4位までのGDPと経済成長率、平均年齢を取り上げて分析していきます。
第1位、インドネシア
インドネシアの人口は日本の約2倍の2.7億人で、中間層、富裕層の増加による市場の拡大も期待されている国です。ASEAN唯一のG20参加国でもあり、ASEAN経済をリードしていることがここでもわかります。耐久財の普及が総じて遅れているので今後の自動車、二輪車、家電分野での市場拡大余地が大きいと言われています。マイナス要素となっているのは、イスラム教徒が人口の88.1%である点です。ハラール証明を取得しなければならないという食品に対する制約や、今後の政治的安定の面が危ぶまれます。
第2位、フィリピン
フィリピンの人口は1億人を超えており、平均年齢も比較的若い31.1歳です。日本企業の進出先として長年上位に上がる国ですが、進出の目的が会社設立から販路拡大に移行する現在も、ポテンシャルの高い国として注目されています。新型コロナウイルスの影響により経済的に大きく打撃を受けたことから購買力が低下しているものの、同感染症の終息とともに経済が持ち直すことが期待されています。
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第3位、ベトナム
ベトナムの人口は1億人弱で平均年齢は31.9歳。一人当たりの名目GDPは約3,700ドルと、海外進出判断基準を満たす所まで経済が盛り上がってきました。ベトナムには、国産商品だけではなく、中国・韓国・アメリカ・ヨーロッパ・オセアニアなど、様々な国の企業も進出しており、既に市場には物で溢れています。ベトナムはかつてフランスの植民地であり、特に南部ではアメリカとの関係も強かったため、欧米諸国の影響も強く受けている国です。ベトナムに進出する企業は、そのような世界中の様々な企業や商品が競合となる事を覚悟しなければなりません。ベトナム人富裕層は日本製品よりも、もっと高額なヨーロッパなどから入ってくるハイブランド商品を好む傾向があります。販路拡大を達成するためには、マーケティング活動やローカライズが重要となるでしょう。
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IT、通信業
1980年代からオフショア開発(システム開発やシステム保守・運用などを人件費の安い海外企業や海外現地法人などに委託・発注すること)がこのカテゴリーの主流です。グローバル化やクラウドビジネス、AIやIoTの活用、DX推進をはじめとして、WEBサービス、アプリケーション開発、業務システムの運営に対応できる高度IT人材の需要は高まり続けています。
日本国内のIT人材の不足と人件費高騰、アジア諸国の高度IT人材の増加、オフショア開発の経験・ノウハウの蓄積に伴うオフショア開発の成功確率の向上が、オフショア開発が注目されている主な理由です。
はじめは中国への委託発注がメジャーでしたが、人件費高騰を背景に開発先がインド、そしてベトナムと変遷し、現在はミャンマー、フィリピンなどの国がオフショア開発先として注目されています。「コスト削減」=賃金の低さ、「リソース確保」=人材開発、の2つがオフショア開発の指標となります。
ベトナム
ベトナムはエンジニア育成、デジタル化などが国策として取り組まれています。2021年に発表された「デジタル・ガバメント」戦略では、100%の行政手続きがオンライン形式で提供されることや、全ての国民がスマートフォンを所有しQRコードに紐付けられたデジタルIDを有することなどを掲げました。
2030年には国連の電子政府ランキングで上位30カ国に入ることも目標とされました。優秀なIT人材が多いことでも知られていますが、世界からも注目されているために競争率と市場の飽和の問題があります。
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シンガポール
ITサービスを運営するような若い会社が積極的に進出している国です。2020年3⽉というかなり初期の段階で「接触追跡アプリ」を世界で初めて配布した国でもあります。その結果として感染拡⼤を防ぎ、市場の回復が早かったと⾔えます。
マレーシア
国家として外資優遇措置を進め、外国投資を獲得しようという意図が強い国です。例えば、クアラルンプールの郊外にある「サイバージャヤ」というエリアを、ASEANのシリコンバレーにしようと、優遇措置などを充実させています。
「越境EC」とは?成功させるためのヒント
越境ECとは海外向けてElectric-Commerce事業を展開することで、日本のネットショップが海外消費者向け商品を販売することをいいます。EC事業の海外進出の理由として、日本の市場はネットショッピングがすでに発達しきっており、個人消費が長年横ばいになっていることなどが挙げられます。ASEANで市場規模の大きな国、6か国を見てみましょう。
上位6か国の合計の推定市場規模は、111兆円です。2021年の日本の小売市場規模が約150兆円なので、日本よりやや小さい規模の小売市場がASEANに存在していることになります。経済成長に伴って小売市場規模も拡大し、数年後には日本と同等の規模になるでしょう。ECで購入をする15歳以上の消費者は、2022年に82%(3億7,000万人)、2027年には88%(4億200万人)となると予測されています(メタ、Brain&Company調査)。以下は、EC展開をする上で成功のポイントとなる点をまとめました。
販売国の言語や法規制への対応が必要
販売国の言語や法規制、文化などに則ったサイト運営をすることです。例えば、A国では発送できる商品がB国には発送できないというケースもあります。
SNSで集客
日本のポップ、カルチャー情報などを配信し海外ユーザーがECサイトへ来訪できるように導線を作ることが集客に効果的です。
日本をアピールした独自性の強い商品
世界的にも人気の高い日本ならではの商品に焦点を絞ることで、独自の販売経路とリピーターを獲得することができます。
安全で利用しやすい決済方法を導入する
販売国や地域によって、ユーザーが使用しやすい決済システムは異なります。例えば先進国の場合はクレジットカードの普及率が高いですが、中国では銀聯(ぎんれん)のような現地の決済システムのほうが信頼されています。
翻訳機能を駆使する
外国語担当者がいることが理想ではありますが、「翻訳機能」を活用することで海外ユーザーとのやり取りが可能になります。
現地の関税や法規制などを正しく把握する
商品発送の際に販売国の法規制を入念に調べ、違法行為を犯して罰金・没収の対象にならないように準備しましょう。
ASEAN諸国の動向についてチェックすべき媒体
経済産業省や観光庁JETROでは、やはり濃密で確かな情報が記載されているので、とても参考になります。世界の広いデータを取るのはOEC(Observatory of Economic Complexity)やWorld Bankが便利です。
進出する国がある程度決まってからは、現地語で書かれたローカル新聞やツイッターを見ることでリアルな内情を追うと、その国の本当の形が見えるように思います。
まとめ
今回の記事では、市場規模が大きく経済成長率の高いASEAN諸国にフォーカスしました。これらの市場は伸びしろがあるとは言え、既に開拓され、発展が始まっている国々なのでリスクは比較的抑えられますが、リターンもそれに比例します。
ASEAN経済国上位6か国以外であるミャンマー、ブルネイ、カンボジア、ラオスでも同様の開発が見られるので、そちらにも注目する必要があるかもしれません。
例えば、ミャンマーを含む4カ国を、高速道路や橋によって結ぶ南部経済回廊というプロジェクトも進んでいます。これにより、ASEAN内で日本企業が最も多く進出しているタイとも結ばれるため、さらに進出を後押しする形になるでしょう。ASEANや海外に市場を見つけることで日本の企業が成功し、日本の経済が活性化されることが期待されます。
人口、成長率、所得層の変化などの影響で、経済の状況はさらに目まぐるしく変化しています。製造拠点と消費市場としての魅力の双方が向上するASEAN市場に海外進出する業種として人気の高い販売、IT・通信業、越境ECについてクローズアップしました。