日本企業の海外進出メリット・デメリット|成功のカギを解説

近年、大企業に比べ投資額の少ないことにより、小企業も海外進出する動きが活発になっています。この記事では新たに海外進出を考える企業のために、海外進出の「メリット」と「デメリット」、「成功の方法」をまとめました。

なぜ日本企業は海外へ進出する?「海外進出の根本的理由」

日本企業が海外進出を選ぶ代表的な理由は国内市場の規模縮小、海外市場規模の拡大、人件費の削減が挙げられます。

日本と世界の経済の現状、世界のエマージングマーケットの現状を、統計を通して詳しく見ていきましょう。

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海外進出の理由①「国内市場の規模縮小」

日本国内市場の規模縮小は、近年問題視されている少子高齢化などの人口減少だけではありません。

日本は1968年から2009年まで42年間、世界の国別GDPランキングでアメリカに次いで2位でした。2010年に中国に抜かれて以来は、世界第3位の地位についています。

GDPにより各国の経済力と成長率を、世界の経済のGDPに占める比率の推移により世界経済への影響力を推測することができます。

2021年12月に発表されたOECD:Annual National Account Databaseの統計を参考に、世界における日本経済の位置を分析します。

参考資料によると、日本のGDPのピークは2012年で6,271億ドルを記録しています。

しかし、2013年から2015年まで3年連続で下降し、2015年のGDPは4,445.4億ドルでした。2016年には一度上昇したものの、その後2020年まで5,000億ドル辺りを上下し、日本経済の伸び悩みが分析できます。2021年についても同様で、GDPは4,937億ドルでした。

GDPと世界のGDPに占める比較(2010年対2020年)

世界の経済に占めるGDPの比率を2010年と2020年で比べると、その成長率の1位が中国で9%と第2位であるインドの0.9%を大きく引き離しています。アメリカは第3位で0.7%、第4位がロシアと韓国で0.3%です。

第5位~10位まではどの国も世界経済に占めるGDPの割合が下がっていますが、その中でも日本が最下位の第10位です。同比率における日本のピークは1995年で、17.6%でした。世界経済に於ける現在の日本の位置は約30年前と同等です。

国際機関は、2040年には3.8%、2060年には3.2%まで低下すると予測しています。(内閣府HP)。日本の市場規模の縮小には、日本経済の鈍化も一つの要因であることがわかります。

国の生産力となる日本の人口の推移については、2022年7月に総務省から発表された人口推計によると現時点では総計1億2,510万人ですが、予測によると2050年には1億人を下回ります。65歳以上の人口割合である高齢化率は40%になる予想です。

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc111110.html より

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海外進出の理由②「拡大する海外市場の獲得

海外進出の二番目の理由は、人口増加が進む海外市場で規模が拡大していることです。

市場規模拡大の指標の一つとして、人口を参考にすることができます。2022年現在世界の人口は77.5億人ですが、国際連合は2060年には100億人になると見込んでいます。特に人口が増加すると予測されている国は順にインド、中国、ナイジェリア、アメリカ、インドネシアで、購買能力に期待する企業の注目が集まっています。

国連は、インドの人口は2025年に中国を抜いて第一位の15億人に達すると予想しています。生活必需品などを商品とする会社やサービスの利用者の増加を図る企業は人口がポイントになるでしょう。

2022年国連発表、世界の推計人口

第2の市場規模を見る指標は購買能力で、各国の最低賃金から推測することができます。日本の最低賃金は年々引き上げられているとは言え、他の先進国と比較すると決して高くありません。

2020年の日本の時給は7.9ドルで、OCED加盟国30国の中では14位でした。韓国は日本よりもGDPが低い中で、最低時給は日本を10%上回る8.7ドルです。

また、世界一最低賃金の高い国としての位置を争う上位3位はオーストラリア(12.4ドル)、ルクセンブルグ(12.4ドル)、フランス(12.1ドル)で、いずれの国もGDPは日本を下回っています。各国の最低賃金は、商品を販売するために海外進出を考える企業は、最低賃金が参考となるでしょう

世界主要国の最低時給の比較推移 (2001-2020年)

海外進出の理由③「人件費の削減」

日本企業が海外進出する第三の理由は人件費の節約です。日本の最低賃金は、コロナ感染症の影響を大きく受けた2020年を除いては2011年から継続的に上昇しています。

発展途上国は先進国と比較して人件費が安い事は言うまでもありませんが、どれだけ安いかと言うと、バングラデシュでは最低日給が776円です(2022年8月現在米ドル対日本円為替レート、135円)。

世界各国の賃金、地価・事務所賃料等、公共料金、輸送、税制、教育、その他を比較した詳細なデータがJETROの投資コスト比較から検索できます。Made in China離れの動向が世界で見られますが、その生産国として注目を集めている国を中心に最低賃金を比較しました。

注目の海外進出先、日本の最低賃金との比較

 日本企業が海外進出するメリット

海外に進出するメリットは企業の業種、商品、市場のニーズなどによりますが、以下の4つが主なメリットとして挙げられます。

  • 販路の開拓・拡大
  • 節税
  • 人件費・原材料費の削減
  • 現地パートナー企業との協業によるシナジー効果

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販路の開拓・拡大のメリット

日本の成熟市場では競争が激化を続けるため、販路の開拓、拡大のために海外進出をする企業も多いでしょう。

日本では当たり前の商品やサービスが海外市場にはない、というケースが多いため、参入すれば大きなビジネスチャンスを得ることができるでしょう

経済産業省では、ミラサポplusという中小企業向け補助金・総合支援をしています。ミラサポplusホームページでは、「事例ナビ」から中小企業の海外展開、海外の販路開拓のヒントとなる事例や様々な支援施策、支援機関を紹介し、様々なプログラムを展開しています。

北澤Nozi

簡単に海外進出の支援制度をご紹介します。

JAPANブランド育成支援等事業

中小企業が現地のニーズにあわせた商品の開発・改良のアドバイスをするプログラムがあります。新たな商品の開発、改良、ブランディング、テストマーケティング、販路開拓等の支援をしています。

参考:制度ナビ

新輸出大国コンソーシアム

海外展示会、商談会等を活用した販路開拓支援プログラムです。コンソーシアムにはJETROを中心に、政府系機関、金融機関、商工会議所、商工会などの支援機関が参加しています。

参考:新輸出大国海外展開支援活用事例集

現地進出支援強化事業(海外販路開拓支援)

事前審査を通過した企業への海外展示会への出店支援、海外バイヤーとの商談会の開催、海外有望市場への販路開拓ミッションの派遣、経済連帯協定(EPA)活用に関するアドバイスなどの支援。

参考:審査に関する詳細

JETROによる中小企業海外ビジネス人材育成塾

海外ビジネスの基礎スキルとして、海外展開戦略の策定や商談資料の作り方などを学ぶためのコースです。そのための情報収集法やSWOT分析、顧客文政などのビジネスフレームワークを講義やワークショップで習得できます。機械、食品、デザイン製品(日用品)の各分野、もしくはアフリカ地域で海外展開を考える中小企業への参加が勧められています。

節税、タックスヘイブンのメリット

「グローバル節税スキーム」と呼ばれる、世界各国の大企業が行っている節税の方法があります。これは、実務を自国で行っていても、本社所在地を他国に移転することで移転地の税率に従い税金を支払う事ができる仕組みを利用する手法です。

 タックスヘイブンと呼ばれる国では一定の課税が大幅に、もしくは完全に免除されます。香港、アイルランド、レバノン、パナマ、シンガポールなどが代表的な国です。

日本では30%程度の所得税を始めとする各種税金を、タックスヘイブンでは0~15%ほどに抑えることができます

北澤Nozi

海外進出による節税のメリットはありますが、日本と移転国の制度をよく理解して損や違反をしないように注意する必要があります。

二重課税やタックスヘイブン対策税制などをよく理解した上で計画と対策をすることが重要です。

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人件費や原材料費の削減

オフィスや製造工場を海外に移転することによる人件費削減のメリットについては、前述の通りです。

原材料費の推移とその原因については、中小企業庁の中小企業白書・小規模企業白書概要(2022年版)の統計を参考にしつつ、現状の条約や同盟を利用してメリットを見込むことができるかを取り上げます。

 エネルギー

日本では、原油と天然ガスの価格はウクライナ情勢の緊迫化により取引価格が高騰しています。

ドイツなどのヨーロッパ諸国で、これまでロシアに天然ガスの供給を頼っていた国には取引の制限をされ、世界全体のエネルギーの価格の高騰と供給量が危ぶまれています。

しかし、一方ではインド、中国、ブラジル、南アフリカなど、新しくロシアから原油を輸入する国もあり、それによって経済が変動するという見方もあります。同各国に海外進出をする日本企業にとっても原油の価格はビジネスコスト削減につながるでしょう。

 非鉄金属

非鉄金属は鉄を除く金属素材であるアルミニウム、銅、チタンなどの多様な金属の総称です。

非鉄金属は、情報通信機器、電子機器、輸送用機器、建設素材、医療用機材、包装材、インフラなどの分野で使用されています。

輸出割合の多い企業は、原材料の生産国に工場を置くと輸送費を削減できるというメリットがあるでしょう。また、関税の面からは、生産国でなくても経済条約を結ぶ国に進出するという方法もあります

北澤Nozi

南アフリカの中古車販売の例をご紹介します。南アフリカに中古車を輸入すると高い関税がかけられるのですが、比較的税率が低く港があるナミビアに輸入する会社があります。ナミビアから南アフリカへ輸出する際はSADC同盟のために関税が安いことから、輸送費を加算しても費用が節約できるためです。

木材や鋼材

日本の国土面積から原材料の生産に限りがあり、輸入に頼らざるを得ません。

原材料生産国への海外進出をすることはコスト削減のメリットとなるだけではなく、市場開拓としてのメリットもあり、中国、マレーシア、インドネシア、タイなどの国に進出する企業が増えています。近年では大手プレハブ株式会社や住宅会社が積極的に海外進出を展開しています。

参考:リビンマガジンBiz/ハウスメーカーと林業の実例について

電気代

節電が呼びかけられるようになった日本国内では、天然ガスの利用が増え、これからも電気代の急上昇が続くと予測されています。

世界で一番OECD加盟国の中で世界一電気代が安い国は韓国で、日本の4割ほどです。OECD加盟国以外で韓国よりも安い国はメキシコです。各国の電気代の詳細はJETROの投資コスト比較を利用することができます。

現地パートナー企業との協業によるシナジー効果

現地の事情に詳しいパートナーや現地企業と提携することで、1+1=3となるシナジー効果を得ることが期待されます。

それは、現地でのノウハウやマーケットを知ることにより新商品の開発や市場の開拓と繋がるためです。

事業シナジーとしては「売り上げの増加」「ノウハウの統合」「コスト削減」「スケールメリット」「人材の活用」などが挙げられます。財務シナジーには「余剰資金の活用」と「節税」などがあります。

日本企業が海外進出するデメリット

人材管理 

海外進出先でのデメリットは、人材の確保と人材の管理が挙げられます。現地の文化と言語を理解し、かつ企業の方針を理解し人材を管理するキーパーソンを採用することは成功の鍵となります。

しかし、そういった人材を確保することが困難であることは世界で共通する問題として挙げられています。

製造工場移管のための現地大量採用に関しては、同じ地域に同じ目的で進出する企業が増加していることから、これから更に人材確保において競争率が高くなるという見方があります。

日本企業の海外進出に伴って外国で人材派遣をするエージェントに相談し、アドバイスをもらうことができます。

法規制

先ほどは税金についての規制を理解することの重要性が浮かび上がりましたが、その他にも労働法や製造に関する規制、経理の面においても進出国の法規制に則って経営することは言うまでもありません。

日本で築き上げたノウハウを活用しつつ、進出国で適応するための調査と対策が十分でなくては、見込んだ利益が望めないだけでなく法を犯すリスクも伴います。

JETROなどの機関や進出国の法に詳しい現地の法律家のアドバイザーが必要でしょう。

為替変動

運営コストと販売価格に大きく影響する為替変動は、どの国でもリスクファクターとして考慮しなくてはなりません。進出国の安定度と為替変動となる要因について海外進出前に把握しておく必要があります。

下記は、為替リスクの種類について、Degima/海外進出に関わる、あらゆる情報が揃う「海外ビジネス支援プラットフォーム」から抜粋しました。

① 換算リスク

換算リスクは実際に取引を行うまではキャッシュフローには影響のない為替リスクではありますが、財務諸表に外貨建資産や負債を計上している場合、為替相場の変動によって会計上の損益が発生します。

② 取引リスク

取引リスクとは、外貨建取引において決済する時の為替相場によって収益が変わるリスクであり、実際のキャッシュフローに影響します。現地で部品を調達するなどしてこのリスクへの対策を行う企業も多いようです。

③ 経済リスク

経済リスクは為替相場の変動が経済に影響を与えるリスクのことで、採算性や競争力など、企業の構造そのものに変化を与えます。

例えば、ナイジェリアやインドネシアは人口の大幅な増加が予測されるため市場の拡大が期待される国として前述しましたが、クーデターや宗教間の争いの可能性による為替変動のリスクが不安要素となります。

国が不安定だとCPIの変動も大きい場合もあるため、日本で経営する場合以上にコストの見直しが必要となるでしょう。

参考:Trading Economics/ 消費者物価指数CPI

言語や文化、商習慣の違い

社内での人材管理、また社外でのサプライヤーとの取引や販売促進において、言語や文化の理解、商業における習慣の違いについて深く理解し、フレキシブルな対応が求められます。

パートナー会社との関係においても同様です。文化や習慣の違いを理解する上で、また人材の育成をする上で共通の言語を話すことは必須です。

しかし、日本人の語学力がグローバル化にとってのボトルネックという現状をすぐに変えることは困難です。これには、海外進出のための言語サポートをするビジネスを利用する方法があります。

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日本企業が海外進出を成功させるカギ

これまでに挙げられたメリットとデメリットから、海外進出を成功させる方法としてはこの3つの点が重要なポイントになります。

  1.   経済状態、為替と物価(カネとモノ)を把握する
  2. 市場と需要(顧客)を知る
  3. 現地企業との連携(シナジー効果)

先に紹介したような政府の支援を有効に活用して事業計画や人材育成などの準備を行い、さらに投資により通訳会社・派遣会社・市場調査会社などを使って具体的に現地での進出を進めて行くことがお勧めです。

日本の企業の海外進出により、日本の経済が成長・発展していくことが期待できます。 

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北澤Noziセカビズライター
通年20年の海外経験があり、南アフリカと日本を行き来する生活を送っています。市場調査員として南アフリカの企業と関わり、フィールドワークの中で見えてきた「今、南アフリカで起こっていること」を日本の方と共有する記事を書きます。興味のあることは人権、環境、ビジネス、社会問題、サブカルチャーなどのジャーナリズム。趣味は料理とキャンプです。