
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画は、2023年12月の発表以来、米国で政治的議論の的でした。2025年1月、バイデン前大統領が国家安全保障上の懸念を理由に買収禁止命令を出し、計画は停滞。
しかし、2025年5月23日、トランプ大統領が一転して承認する意向を表明しました。なぜトランプ氏は反対から承認へと方針転換したのでしょうか。その理由を解説します。

経済的利益の再評価

トランプ氏は選挙戦中、USスチールの買収に強く反対し、「即座に阻止する」と述べていました。USスチールはペンシルベニア州など鉄鋼労働者の多い地域で象徴的な企業であり、保護主義を掲げるトランプ氏にとって地元有権者の支持を得る重要なカードでした。
しかし、2025年2月の日米首脳会談後、トランプ氏は「買収ではなく投資」と表現し、計画に柔軟な姿勢を示し始めました。日本製鉄の提案する140億ドルの投資と7万人以上の雇用創出は、トランプ氏の「アメリカ製造業の復権」という政策目標に合致。ペンシルベニア州への大規模投資が歴史上最大と評価され、経済的利益を優先したことが方針転換の大きな要因です。
安全保障リスクの軽減
トランプ氏は4月7日、対米外国投資委員会(CFIUS)に買収計画の再審査を指示。バイデン政権下では安全保障上の懸念から禁止命令が出されましたが、トランプ政権下のCFIUSは5月21日までに、日本製鉄のリスク軽減策が十分と判断する報告を提出しました。日本製鉄は生産能力の維持や取締役の米国籍過半数化を提案し、安全保障上の懸念を払拭。トランプ氏はこの報告を受け、買収が国家安全保障に影響しないと判断したと考えられます。
日米関係の強化
日米首脳会談での石破茂首相との協議も影響しました。日本政府は、買収が日米経済協力の一環であり、米国の産業強化に資すると主張。トランプ氏は680億ドルの対日貿易赤字是正を求める一方、「日本との素晴らしい関係」を維持する意向を示しました。石破氏との信頼関係や投資拡大の確約が、トランプ氏の承認を後押しした可能性があります。
市場と労働組合の反応
全米鉄鋼労働組合(USW)は買収に反対しましたが、トランプ氏の承認表明後、USスチール株は16%以上上昇し、市場は好意的に反応。日本製鉄とUSスチールは雇用維持と技術供与を強調し、労働組合の懸念緩和に努めました。トランプ氏はこれを「計画的なパートナーシップ」と位置づけ、経済的成果をアピールしました。
政治的成果の強調
トランプ氏は承認を自身のリーダーシップの成果として打ち出す戦略を取りました。SNSで、USスチールがピッツバーグに本社を維持し、「メイド・イン・アメリカ」を保証すると強調。自身の関税政策と投資拡大を結びつけ、政治的公約を果たした形での承認となりました。
まとめ
トランプ氏が日本製鉄のUSスチール買収を承認した理由は、経済的利益の再評価、CFIUSのリスク軽減策、日米関係の強化、市場や労働組合への配慮、そして政治的成果の強調が複合的に絡んだ結果です。
特に、日本製鉄の投資と雇用創出がトランプ氏の政策目標に合致したことが決定的でした。今後、正式な承認手続きと投資計画の進展が注目されます。