
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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トランプ米大統領が2025年4月2日に発表した相互関税政策は、世界中の国々に対して一律10%の基本関税を課すとともに、特に貿易赤字が大きい国や地域に対して追加の関税を上乗せする形で実施されました。
この中で、ASEAN諸国、特にベトナム(46%)やカンボジア(49%)に対する関税率が非常に高いことが注目されます。これらの高い関税率の背景には、中国がこれらの国々を迂回路として利用し、アメリカへの輸出を続けているという状況が大きく関わっています。
以下その理由を論理的に整理し、中国による迂回路を中心に説明します。

関税を回避する迂回路とは
まず、相互関税の目的を理解することが重要です。トランプ大統領は、アメリカの貿易赤字を「国家緊急事態」と位置づけ、国内産業の保護と雇用の創出を目指しています。
特に、中国との貿易戦争が第1次トランプ政権から続いており、中国製品に対する高い関税(今回の発表では既存の20%に34%を上乗せし合計54%)が既に課されています。この状況下で、中国企業は直接アメリカに輸出する際のコストを避けるため、ASEAN諸国を経由した迂回路を活用する戦略を取ってきました。
具体的には、中国で生産した商品や部品をベトナムやカンボジアに輸出し、そこから加工や組み立てを経て「ベトナム製」や「カンボジア製」としてアメリカに輸出するのです。これにより、中国製品が実質的に関税を回避する形でアメリカ市場に流入する状況が生まれていました。
次に、なぜベトナムやカンボジアがその迂回路として選ばれたのかを考えます。これらの国々は、中国に地理的に近く、労働コストが安価であるため、中国企業にとって生産拠点を移すのに適しています。
さらに、第1次トランプ政権時の米中貿易戦争以降、「チャイナプラスワン」戦略として、多くの企業が中国以外の生産拠点を模索しました。その結果、ベトナムやカンボジアは投資が急増し、輸出産業が急速に成長しました。
例えば、ベトナムは縫製や電子機器、カンボジアはアパレル産業で対米輸出を拡大してきました。しかし、こうした輸出品の中には、中国からの原材料や中間財が大量に含まれており、実質的に中国の生産ネットワークの一部として機能しているケースが多いのです。
トランプ政権は、これを「中国企業が関税を回避するための迂回路」と見なし、ベトナムやカンボジアに高い関税を課すことで、この抜け道を封じようとしています。
他のASEAN諸国の状況は

さらに、関税率の高さが単なる貿易赤字の規模だけでなく、中国との関連性を反映している点も見逃せません。トランプ政権高官は、カンボジアとベトナムについて「中国企業がこれらの国を通じてアメリカに輸出している」と明言しています。実際に、アメリカ通商代表部(USTR)のデータや分析では、これらの国々の対米輸出に占める中国由来の割合が大きいことが指摘されています。
たとえば、ベトナムの対米輸出が急増した背景には、中国からの投資や中間財輸入の増加があり、単なる現地生産の成果とは言えない部分があります。カンボジアも同様で、アパレル産業における中国からの依存度が高いことが知られています。このため、トランプ政権は、ベトナム46%、カンボジア49%といった極めて高い関税率を設定し、中国の迂回路としての機能を抑止しようとしているのです。
また、他のASEAN諸国、例えばタイ(36%)やインドネシア(32%)にも比較的高い関税が課されていますが、ベトナムやカンボジアほどではない点も注目されます。
これは、これらの国々が中国の迂回路としての役割を担う度合いが相対的に低いためと考えられます。タイやインドネシアも中国からの投資を受けていますが、産業構造や対米輸出の依存度が異なるため、トランプ政権の標的としての優先度がやや下がったのでしょう。
一方で、ベトナムとカンボジアは、中国との結びつきが強く、かつアメリカへの輸出依存度が高いため、特に厳しい措置が取られたのです。
まとめ
最後に、この政策がASEAN全体に与える影響も考慮する必要があります。
高い関税は、ベトナムやカンボジアの経済に打撃を与え、現地産業の成長を阻害する可能性があります。しかし、トランプ政権の視点では、中国への圧力を強め、アメリカ国内の製造業を復活させるための必要悪とみなしているようです。
結果として、中国の迂回路を封じる意図が、ASEAN諸国への高関税という形で表れ、特にベトナムとカンボジアがその標的となったのです。