
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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50代の日本人男性が中国・上海の裁判所でスパイ活動の容疑により懲役12年の判決を受けた事件を受け、中国外務省の林剣副報道局長は2025年5月14日の記者会見で、日本側に対し在留邦人に中国の法律を順守し、犯罪活動に関わらないよう指導するよう求める発言を行いました。
この事件は、中国に駐在員を派遣する日本企業にとって、重大なリスク管理の課題を浮き彫りにしています。日本企業はどういった対策を練るべきでしょうか。

まずは、法的遵守の徹底を

まず、法的順守の徹底が最も重要です。中国では「国家安全法」や「反スパイ法」など、広範かつ曖昧な法律が施行されており、企業活動や個人の行動が意図せず法に抵触する可能性があります。
日本企業は、中国の法制度を深く理解し、現地法務専門家やコンサルタントと連携して、駐在員が関与する業務がこれらの法律に適合しているかを確認する必要があります。特に、情報収集や市場調査がスパイ活動と誤解されないよう、業務の透明性を確保し、機密性の高い活動には明確なガイドラインを設けるべきです。たとえば、競合他社の情報収集や政府関連機関との接触は、慎重な事前審査と記録の保持が求められます。
次に、リスク管理の強化が不可欠です。中国におけるスパイ容疑の摘発は、曖昧な基準で運用されることが多く、駐在員が意図せず当局の監視対象となるリスクがあります。企業は、リスク評価を定期的に実施し、特に政治的・外交的な緊張が高まる時期には、駐在員の行動や業務内容を見直すことが重要です。
また、現地当局との関係構築も有効です。現地政府や業界団体との対話を通じて、企業の活動が合法的であることを積極的にアピールすることで、誤解や不当な嫌疑を軽減できます。さらに、駐在員の安全を確保するため、緊急時の退避計画や法的支援体制を事前に整えておくべきです。
従業員教育や危機対応体制の重要性
従業員教育の充実も欠かせません。駐在員に対し、中国の法制度や文化、さらにはスパイ活動とみなされるリスクの高い行動について、事前研修を徹底する必要があります。たとえば、機密情報の取り扱い、SNSや電子メールでの情報発信、公共の場での発言について具体的な注意点を指導するプログラムが有効です。特に、スマートフォンやパソコンが監視される可能性を考慮し、セキュリティ対策を徹底させるべきです。
さらに、現地での生活において、過度な政治的話題や政府批判を避けるよう指導することも重要です。教育プログラムには、実際の事例やシナリオを用いた実践的な訓練を取り入れ、駐在員がリスクを具体的にイメージできるようにすることが効果的です。
危機対応体制の構築も重要です。万が一、駐在員が当局に拘束された場合、迅速かつ適切に対応できる体制を整えておく必要があります。企業は、事前に現地の法律事務所や危機管理コンサルタントと契約を結び、緊急時の連絡網を整備しておくべきです。
また、日本大使館や領事館との連携を強化し、拘束された場合の初動対応(弁護士の派遣、家族への連絡、情報収集)をスムーズに行えるように準備することが求められます。さらに、メディア対応も考慮し、企業の評判を守るための声明や情報開示のガイドラインを策定しておくことが賢明です。
まとめ
この事件は、日中間の外交的緊張や中国の法執行の不透明さが、日本企業にとって大きなリスク要因であることを改めて示しています。特に、最近の中国における外国人への監視強化や、米中対立の影響による地政学的リスクの高まりを背景に、日本企業はこれまで以上に慎重な対応が求められます。
たとえば、駐在員の派遣人数を必要最小限に抑え、リモートワークや現地採用を活用するなど、人的リスクを軽減する戦略も検討すべきです。また、企業のコンプライアンス部門と現地法人が密に連携し、リスク情報をリアルタイムで共有する体制を構築することが重要です。