中国「反スパイ法」の曖昧さと邦人拘束リスク

中国「反スパイ法」の曖昧さと邦人拘束リスク

エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。

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2023年3月、中国でアステラス製薬の日本人男性社員が「スパイ行為」の容疑で拘束され、2025年7月に北京の地裁で懲役3年6か月の実刑判決を受けた事件は、中国における反スパイ法の運用がもたらすリスクを改めて浮き彫りにします。この法律は、2014年の施行以来、日本人を含む外国人の拘束事例が相次いでおり、2023年7月の改正によってさらに取り締まり対象が拡大しました。

法の曖昧さと恣意的な運用により、今後も邦人拘束が続く可能性があり、中国に進出する日本企業は駐在員をできる限り削減する戦略を検討するべきでしょう。

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「スパイ行為」の定義の曖昧さ

まず、中国の反スパイ法の最大の問題点は、「スパイ行為」の定義が極めて曖昧であることです。改正前の法律では「国家機密」の窃取や提供が主な対象でしたが、改正後は「国家の安全と利益に関わる文書、データ、資料、物品」の窃取や提供も含まれるようになりました。しかし、「国家の安全と利益」の具体的な基準は明示されておらず、当局の裁量によって広範な行為がスパイ行為とみなされる危険性があります。

例えば、企業が市場調査や取引先の情報収集を行う際、通常のビジネス活動が当局によって「スパイ行為」と解釈されるリスクが存在します。アステラス製薬の社員のケースでも、具体的な違反行為の詳細は公開されておらず、企業側がリスクを事前に予測し回避することが困難な状況です。この不透明さは、企業活動における法的予見可能性を著しく損ないます。

さらに、反スパイ法の改正により、国家安全機関の捜査権限が大幅に強化されました。新法では、身分証明書の検査、電子機器や施設の調査、財産情報の照会、出入国禁止措置など、広範な権限が当局に付与されています。これにより、企業や個人が意図せず法に抵触する可能性が高まっています。

例えば、軍事施設や重要インフラに関連する情報を扱う企業は特に注意が必要ですが、どの情報が「国家の安全」に抵触するのか判断が難しいのが実情です。実際に、2015年以降、少なくとも17人の日本人がスパイ容疑で拘束されており、うち5人が現在も解放されていない状況です。このような事例は、企業にとって駐在員の安全確保が極めて困難であることを示しています。

駐在員を派遣し続けることのリスク

このような状況下で、日本企業が中国に駐在員を派遣し続けることは、従業員の安全と企業全体のリスク管理の観点から大きな課題となっています。駐在員の拘束リスクは、個人の人権侵害だけでなく、企業の事業継続にも深刻な影響を及ぼします。例えば、拘束された社員の解放交渉には時間とコストがかかり、企業イメージの毀損や現地でのビジネス展開の制約にもつながります。実際に、中国に進出する一部の日系企業の間では、反スパイ法の影響で駐在員の派遣を控える動きが広がっています。

加えて、反スパイ法は中国国内だけでなく、国外での行為にも適用される可能性が指摘されています。2024年12月には、日本国内で尖閣諸島に関する情報を日本政府関係者に提供した日本人女性が、中国入国時に拘束される事件が発生しました。このケースは、反スパイ法の「域外適用」が現実の脅威であることを示しており、駐在員だけでなく、日本国内で活動する社員や出張者もリスクに晒される可能性があります。こうした状況を踏まえ、外務省は中国への渡航者に対し、スパイ行為とみなされる可能性のある行動例を公表し、注意を促していますが、具体的なガイドラインが不足しているため、企業自らがリスク管理を強化する必要があります。

したがって、日本企業は中国での事業継続を模索する一方で、駐在員の数を最小限に抑える戦略を採用すべきです。

具体的には、以下のような対策が考えられます。第一に、リモートワークや現地採用の強化により、駐在員の派遣を減らすことが有効です。第二に、駐在員に対しては、反スパイ法のリスクに関する徹底した研修を実施し、情報収集や現地での行動における注意点を教育する必要があります。第三に、万が一の拘束に備え、危機管理マニュアルを整備し、現地の法律事務所や専門家との連携を強化することが重要です。これらの対策は、企業がリスクを最小化しつつ、中国市場での競争力を維持する一助となります。

まとめ

最後に、反スパイ法の運用は中国政府の国家安全保障を優先する姿勢を反映しており、今後さらに取り締まりが強化される可能性があります。

日系企業は、ビジネスチャンスを追求する一方で、従業員の安全を最優先に考えるべきです。駐在員の削減は、コストや効率の観点からも合理的であり、企業としての責任を果たすための現実的な選択肢です。中国での事業環境が不透明な中、慎重な判断が求められます。

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