海外ビジネスにおいて気になる、日本との文化の違い。日本では当たり前のことが、海外では特別だったり、時には失礼にあたることも。この記事ではそんな文化の違いの根幹となる世界の宗教について、ビジネスマンが知っておくべき情報をまとめました。
ビジネス先の宗教理解は必須
ビジネスでよく遭遇する挨拶の握手。握手一つとっても「イスラム教やヒンドゥー教は左手を差し出すのはご法度」「イスラム教では異性との握手はあくまで相手から手を差し出された時だけ」といったルールがあります。特に宗教の影響を受けるのが食事。会食前にはお相手の宗教への配慮が必須です。お互いに気持ちよく、良好な関係を築くためにも、海外の宗教について学んでおきましょう。
宗教別の慣習・NG行為
今回は世界の8割ほどを占める、特に信仰者の多い5つの宗教について紹介していきます。
- イスラム教
- ヒンドゥー教
- キリスト教
- ユダヤ教
- 仏教
イスラム教
西アジア、北アフリカ、中央アジア、南アジア、東南アジアを中心に、約19億人に信仰*されているイスラム教。 唯一神「アッラー」を信じる一神教です。コーランやハディースに記された様々な規律を守り生活しています。
預言者ムハンマドが受けた神の啓示をまとめた啓典。
神の言葉を人々に伝えた預言者ムハンマドの言動の記録。コーランに書かれていないことや迷った時の判断基準として使われます。
イスラム教の文化・慣習
ハラール(許された行動や物)とハラーム(禁じられた行動や物)の考え方を元に生活します。夜明け前・昼・午後・日没時・夜の1日5回、メッカの方向に礼拝する習慣があります。
イスラム教においてお祈りは生活の一部です。サウジアラビアなどイスラム教を国教としている国では、礼拝を行う時間帯に店が閉まっているということもあるので注意が必要です。
服装は男女ともに身体の露出を控え、女性は顔と手以外を隠し、近親者以外には目立たないようにします。特に保守的な地域では、顔や身体全体を隠す衣装「ブルカ」や「ニカブ」が着られています。
イスラム教の食生活
アルコールや豚肉の飲食は禁止です。豚由来の成分が入っている調味料や、みりんもNGです。また豚肉以外の動物性の食材にも決まりがあり、処理の仕方によっては食べられません。会食時はハラールの食事・食材を選びましょう。
注意が必要な食材
・豚
・アルコール
・血液
・宗教上の適切な処理が施されていない肉
・うなぎ
・魚介類(イカ・タコ・貝類)
・漬け物などの発酵食品
また毎年約1か月間、日中の飲食を絶つラマダンという期間があり、日の出前の時間に起きて食事をしなければなりません。
ハラルやムスリムについての情報や、イスラム教徒の方も安心して利用できるホテル・レストランを紹介しています。イスラム教徒の方々でおもてなしする方はぜひご覧ください。
イスラム教で失礼に当たる行為・NG行為
異性との接触はNGとされているため、異性との握手は相手から求められる前に行うことは避けた方が良いでしょう。イスラムの考えの影響で犬を嫌がる方もいるため、近づけないようご注意ください。
その他
香水をつけること自体は好まれますが、日本や欧米の香水はアルコールが含まれることが多いためあまり良く思わない方もいます。
参考:観光庁「国別・宗教別・嗜好別に見た外国人客の食文化・食習慣 <データベース編>https://www.mlit.go.jp/common/000116946.pdf(2022年7月13日)
ヒンドゥー教
インドやネパールで多く、約12億人に信仰*されているヒンドゥー教。シヴァ神やヴィシュヌ神など、多くの神々を信仰する多神教です。
ヒンドゥー教の文化・慣習
生活の基本に宗教があるため、個人ごとに信仰する神の教えを守りながら生活しています。インドでは身分制度「カースト」が今も残っており、2,000 以上のカーストが存在すると言われています(※インド憲法ではカーストが否定されています)。
ヒンドゥー教の食生活
肉類・魚介類・卵・生もの・ネギ類は避けるのがベターです。また浄化するための方法として、菜食(ベジタリアン)を選ぶ人もいます。人によって食べられるものが異なるため、前もって確認をしておきましょう。
注意が必要な食材
・肉類(特に牛・豚)
・魚介類全般
・卵
・生もの
・ネギ類(ニンニク・ニラ・ラッキョウ・玉ねぎ・アサツキ)
食事中のルールには「自分の皿によそわれたものを、他人に取り分けることはNG」「大皿から取り分ける時は自分のスプーンが大皿に触れないように気をつけなければならない」というものがあります。
人によっては、カーストの地位、ベジタリアンか否かなど、立場が異なる人との同席を嫌がる方もいます。
ヒンドゥー教で失礼に当たる行為・NG行為
左手は不浄の手とされ、握手や食事は右手が基本。物や書類の受け渡しも右手を使うようにしましょう。 また頭は神聖なものだと考えられており、子どもを含め頭を触らないよう注意してください。
その他
ヒンドゥー教にはタバコは神聖なものではないという考えがあり、インドでは公共施設はすべて禁煙で違反すると200ルピーの罰金が課されます。ホテルやレストランでの喫煙も難しいため注意が必要です。
参考:IACE TRAVEL「知っておくべき宗教事情」 https://www.iace.co.jp/bts/column/detail/20200817_02.html(2022年7月13日)
参考:観光庁「国別・宗教別・嗜好別に見た外国人客の食文化・食習慣 <データベース編>https://www.mlit.go.jp/common/000116950.pdf(2022年7月13日)
キリスト教
アメリカ、ヨーロッパを中心に世界各地約24億人が信仰*しているキリスト教。イエスを救世主として信じる宗教で、さまざまな教派に分かれています(代表的なもの:ローマ・カト
リック教会、東方正教会、プロテスタント諸教会)。
キリスト教の文化・慣習
日曜にミサ・礼拝に行く、食事前に祈りを唱えるといった習慣はあるものの、厳しい規律はいくつかの教派(モルモン教、セブンスデー・アドベンチスト教会など)に限られます。
また西洋・欧米諸国は契約や法律を特に重んじるイメージがある方もいらっしゃるかもしれませんが、それはキリスト教の考え方による影響とも言われています。
キリスト教の食生活
基本的に食に関する禁止事項はほとんどありませんが、一部アルコール・コーヒー・紅茶・お茶などが禁じられていたり、菜食を推奨する教派もあります。
キリスト教で失礼に当たる行為・NG行為
キリストの13人の弟子の中に裏切り者のユダがいたことから、数字の「13」は不吉とされています。
教派により様々な禁止事項が存在します。ローマ・カトリック教会には、人工授精、避妊、同性愛などを制限するべきだという考え方もあるため、そのような話題は避けた方が無難かもしれません。
その他
全般的に他の宗派に比べ制限等は少ないものの、一部のキリスト教徒には食事の規制事項もあるため、食事シーンの際は事前に食べられないものを確認することをおすすめします。
参考:観光庁「国別・宗教別・嗜好別に見た外国人客の食文化・食習慣 <データベース編>https://www.mlit.go.jp/common/000116948.pdf(2022年7月13日)
ユダヤ教
イスラエル、アメリカ、ロシアなど世界各国、約6,000万人が信仰*するユダヤ教。唯一神「ヤハウェ」を信じる一神教です。大きく3つの宗派に分かれ、厳格に規律を守る「正当派」、現代社会に合わせ食事の自由を認め生活する「改革派」、その中間に属する「保守派」があります。
ユダヤ教の文化・慣習
個人によって度合いは変わりますが、神の教えを守りながら生活しており、食事においては「カシュルート」と呼ばれる規定により、食べて良いもの・食べてはいけないものが厳格に区別されています。
ユダヤ教の食生活
チキンスープ、白パン、詰め物をした魚や、野菜や豆などを煮込んだ「ホレント」という料理が日常的なメニューです。カシュルートの規定を元に作られた、食べてOKな食事は「コーシャミール」と呼ばれます。このコーシャミールは日本で手に入れるのが非常に難しいそうなので、日本で会食する場合は早めに準備をしておきましょう。
注意が必要な食材
・肉類(豚・うさぎ・馬)
・血液
・魚介甲殻類(イカ・タコ・エビ・カニ・ウナギ・貝類)
・宗教上の適切な処理が施されていない肉
・乳製品と肉料理の組合せ
食事の際には食前に必ず手を洗い、祈りを捧げるという習慣もあります。
ユダヤ教で失礼に当たる行為・NG行為
安息日(毎週金曜の日没から土曜の日没まで)は神が天地を創造したことを覚えるとともに、神がユダヤ人の歴史を救い、ユダヤ人が神の民であることを覚える記念日とされており、一切の労働が禁じられています。
その他
安息日や祝祭日には食事が決まっていたり、断食を行う方もいるため、食事タイミングにも配慮が必要です。
参考:観光庁「国別・宗教別・嗜好別に見た外国人客の食文化・食習慣 <データベース編>https://www.mlit.go.jp/common/000116949.pdf(2022年7月13日)
仏教
9割以上がアジア、約5億人が信仰*する仏教。日本・チベット・中国で主流の「大乗仏教」、タイ・スリランカ・ラオスなどで主流の「上座部仏教」の2つに大別されます。
仏教の文化・慣習
殺生や生き物を傷つけてはいけないという考えはあるものの、肉を食べる人も多く、宗派や国などによって意識は異なります。タイなど日常により深く仏教が浸透している国では、仏教を侮辱するような行為は厳しく罰せられることもあります。
仏教の食生活
肉や魚などを使用しない、仏教の教えをもとに作られた精進料理がありますが、食に関する禁止事項があるのは、一部の僧侶と厳格な信者に限定されます。
注意が必要な食材
・肉全般
・ネギ類(ニンニク・ニラ・ラッキョウ・玉ねぎ・アサツキ)
仏教で失礼に当たる行為・NG行為
タイでは寺院や儀式についての侮辱行為は厳しく罰せられます。僧侶は絶対に女性に触れたり、触れられたりしてはいけないため、例えばバスで隣に座らないなど近づかないよう心遣いが必要です。また頭は精霊が宿る場所とされ、頭に触れることはタブー(子どもの頭も撫でないように)。一方で足は不浄とされているため、足裏を第三者に向けて座ったり、足で物を動かしてはいけません。
その他
タイやミャンマーではお寺に入る際は短パンなどの露出が高い服装がNGだったり、裸足で入らないといけないという決まりがあります。日本で馴染みのある仏教ではありますが、国ごとに考え方、ルールは異なるのでご注意を。
参考:観光庁「国別・宗教別・嗜好別に見た外国人客の食文化・食習慣 <データベース編>https://www.mlit.go.jp/common/000116947.pdf(2022年7月13日)
まとめ
今回は宗教別の文化、食事についてをご紹介してきました。
ビジネスの際は事前に相手のことを知り、気持ちの良い時間をお過ごしください。
- イスラム教では1日5回の礼拝は必須。時間の配慮を。
- イスラム教・ヒンドゥー教・ユダヤ教はNG食材に特に気をつける。
- 日本でメジャーな仏教も国によってルールが違うので注意。
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