
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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5月30日、日本政府は中国との間で、日本産水産物の輸入再開に関する技術的な要件で合意に達したと発表しました。この合意は、2023年8月に東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出が始まったことを受け、中国が日本産水産物の輸入を全面停止して以来、約2年ぶりの進展となります。今後、輸出関連施設の再登録手続きが完了次第、日本産水産物の対中輸出が再開される見通しです。
この動きは、単なる経済的な合理性を超えた中国の政治的戦略の一環として注目されます。なぜこのタイミングで中国は輸入再開に踏み切ったのでしょうか。その背景には、国際政治の力学、特にトランプ政権の保護主義的姿勢と日米関係への影響を巧みに利用する狙いがあると考えられます。

トランプ政権の保護主義と日米関係への影響

トランプ米大統領の再選後、米国は再び保護主義的な経済政策を加速させています。トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げ、諸外国に対する高関税政策、いわゆる「トランプ関税」を推進しています。
これにより、欧州やアジアの同盟国を含む多くの国が経済的な混乱に直面しています。特に日本に対しては、自動車や工業製品に対する関税引き上げや、相互関税の導入をちらつかせ、日米間の経済的緊張が高まっています。トランプ氏は、日本の対米貿易黒字を問題視し、さらなる譲歩を求める姿勢を明確にしており、日米関係の経済的基盤に揺らぎが生じつつあります。
このような状況は、中国にとって対日接近の好機を提供します。中国は、米国との対立が続く中、日米同盟の結束を弱体化させることで、対中国抑止の枠組みを揺さぶりたいと考えています。
日本産水産物の輸入再開は、経済的な恩恵を日本に与えることで、両国間の関係改善を演出し、日本を米国から引き離す一歩となり得ます。中国はこれまでも、経済的なインセンティブを外交カードとして活用してきた歴史があり、今回の動きもその延長線上にあると言えます。
中国の狙い:日米分断と地域的影響力の拡大
中国の狙いは、日米による対中抑止の枠組みを脆弱化させることにあります。日米同盟は、アジア太平洋地域における中国の影響力拡大を牽制する要として機能してきました。しかし、トランプ政権の保護主義的な圧力が日本に及ぶ中、中国は日本との関係強化を通じて、この同盟に亀裂を生じさせようとしています。
輸入再開は、日本にとって経済的なメリットが大きく、特に水産業界や地方経済への恩恵が期待されます。これにより、一部で対中関係改善を求める声が高まることも考えられます。 さらに、中国は東アジアにおける地域的影響力の拡大も視野に入れています。日本産水産物の輸入再開は、ASEAN諸国や韓国など、他のアジア諸国に対するメッセージにもなります。
中国が日本との経済協力を深める姿勢を示すことで、地域内の対中包囲網を緩和し、経済的な結びつきを強化する狙いがあります。これは、米国が推進するインド太平洋戦略への対抗策としても機能します。
日本企業の備え
日本は、今回の合意を経済外交の成果として歓迎していますが、日本企業としては、中国の政治的意図を慎重に見極める必要があります。
輸入再開は日本の水産業界にとって朗報ですが、過度な対中依存は、将来的な外交リスクを伴います。繰り返しになりますが、中国が日本産水産物の輸入を一部再開する背景には、トランプ政権の保護主義による日米間の亀裂を突き、日米同盟の結束を弱体化させる戦略があると考えられます。
経済的なインセンティブを通じて日本に接近し、地域での影響力を拡大する狙いは、中国の長期的な地政学的目標と一致します。日本企業としては、経済的な利益を確保しつつ、中国の意図を冷静に分析していく必要があります。
さらに、日本企業も中国側の狙いを慎重に見極めるべきです。経済的機会を活かす一方で、地政学的なリスクを考慮し、バランスの取れた戦略を構築することが求められます。