
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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2025年、トランプ政権の再始動に伴い、関税政策が世界経済に大きな波紋を広げています。特に、中国に対する高関税は、米中間の緊張を一層高める要因となっています。
この「トランプ関税の嵐」に対し、中国はどのような戦略で対抗しようとしているのでしょうか。
今回は、中国が取る二つの姿勢 国内向けの強気な姿勢と国際社会に向けたスマートなアピールを解説します。

国内向け:強気な姿勢で国民の支持を維持
中国政府にとって、トランプ政権の高関税政策は経済的な挑戦であると同時に、国内政治の試金石でもあります。
習近平政権は、米国に対して弱腰な姿勢を見せると、国民からの批判が高まり、政権の求心力が低下する恐れがあると考えています。そのため、中国は強気の姿勢を崩しません。具体的には、対抗関税の導入や米国製品の輸入制限など、報復措置を迅速に打ち出すことで、国民に対して「米国に屈しない」というメッセージを発信しています
例えば、トランプ政権が中国からの輸入品に高関税を課す方針を示した際、中国は即座に米国産農産物やエネルギー製品に報復関税を課す準備を進めました。このような措置は、国内のナショナリズムを喚起し、政権への支持を固める効果があります。SNSやメディアを通じ、「中国は大国として堂々と立ち向かう」とのプロパガンダが展開され、国民の団結を促しています。
しかし、この強硬姿勢は、経済的なコストも伴います。関税戦争の激化は、輸出依存度の高い中国経済に打撃を与え、企業の負担増や雇用の不安定化を招く可能性があるため、慎重なバランスが求められます。
国際社会向け:自由貿易の擁護者としてアピール

一方、国際舞台では、中国はトランプ政権を「自由貿易の脅威」と位置づけ、自らをグローバル経済の擁護者としてアピールする戦略を取っています。
トランプ政権の保護主義的な政策は、欧州、日本、グローバルサウス(新興国や発展途上国)など、多くの国々にとって懸念材料です。中国はこの機を捉え、これらの国々との連携を深めようとしています。
例えば、中国はRCEP(地域包括的経済連携協定)や一帯一路構想を積極的に推進し、自由貿易と多国間協力を支持する姿勢を強調しています。
2024年のAPEC首脳会議では、習近平国家主席が「保護主義は世界経済の分断を招く」と批判し、米国を暗に牽制しました。また、欧州連合(EU)やASEAN諸国に対し、共同でWTO(世界貿易機関)の枠組みを守ることを呼びかけ、トランプ政権の単独行動主義に対抗する姿勢を示しています。
この戦略の狙いは、中国を「ルールに基づく国際秩序の守護者」として印象づけることです。特に、グローバルサウス諸国に対しては、インフラ投資や技術支援を拡大することで、米国の影響力を相対的に弱めようとしています。これにより、中国は経済的だけでなく、外交的にも優位性を築くことを目指しています。
今後の展望と課題
中国の二つの姿勢は、国内の安定と国際的な影響力拡大を両立させるための戦略です。しかし、強硬な対米姿勢は貿易戦争の長期化を招き、国内経済への負担が増すリスクがあります。
また、自由貿易の擁護者を自称する一方で、国内では監視の目を強化するなど、独裁主義的な政策が批判されることもあり、国際社会での信頼獲得には課題が残ります。
トランプ関税の嵐は、米中間の対立を一層深めるだけでなく、グローバル経済の枠組みを揺さぶる要因です。中国がこの危機をどう乗り越え、国際社会での地位をどう確立していくのか、今後の動向に注目が集まります。