もくじ
日本国内で外国人ビジネスパートナーや同僚と働く機会が増えています。出入国在留管理庁の調査によると、在留外国人が情報を入手する際に母語以外で希望する言語として、日本語が最も多い結果となっており、日本語でのコミュニケーションの重要性が高まっています。
本記事では、相手がある程度日本語を理解できる前提で、より伝わりやすい日本語の話し方に特化して解説します。英語での会話ではなく、日本語を使いながらも外国人パートナーにしっかりと伝わるコミュニケーション技術を身につけることで、業務効率の向上や信頼関係の構築につながります。
具体的には、主語の明示、短文の活用、曖昧表現の排除など、すぐに実践できるテクニックをシーン別にご紹介します。
基本原則:わかりやすい日本語の5つの柱
外国人に伝わる日本語を話すためには、以下の5つの基本原則を意識することが重要です。これらは「やさしい日本語」として出入国在留管理庁・文化庁が推進しているコミュニケーション方法の核心部分でもあります。
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主語を明確にする
日本語は主語を省略する言語ですが、これが外国人にとって大きな混乱の原因となります。豊橋市の多文化共生マニュアルによると、行政文書は主語が省略されていることが多く、外国人にとって非常に分かりにくい文書になるとされています。
悪い例:
- 「承認が必要です」(誰の承認?)
- 「明日までに提出してください」(誰が誰に?)
- 「確認しました」(誰が何を?)
良い例:
- 「山田部長の承認が必要です」
- 「田中さんは、この資料を鈴木さんに明日までに提出してください」
- 「私はこの報告書を確認しました」
ビジネスシーンでは「誰が・何を・いつ」を明示することで、責任の所在や行動の主体が明確になり、誤解を防げます。
丁寧形(です・ます)を基本にする
外国人が日本語を学習する際、最初に習得するのは「です・ます」形です。過度な敬語は理解を妨げる一方、カジュアルすぎる表現も適切ではありません。
避けるべき表現:
- 「やっといて」→「お願いします」
- 「これ、いい?」→「これでよろしいですか?」
- 過度な敬語:「召し上がる」「いらっしゃる」「お越しになられる」
推奨される表現:
- 「この資料を作成してください」
- 「明日の会議に参加してください」
- 「質問があれば教えてください」
ルネサンス日本語学院の調査では、実際に日本に住んでいる外国人の8割が日本語を十分に話せないと答えており、丁寧形を基本としたシンプルな表現が理解されやすいことが分かっています。
短い文で区切る
日本語は接続詞「が」「けれど」「ので」を多用することで一文が長くなりがちです。一文一義の原則を守り、短い文章で区切ることが重要です。
悪い例: 「この商品は価格が高いですが、品質が優れているので、長期的に見ればコストパフォーマンスが良く、多くのお客様に選ばれています」
良い例: 「この商品は価格が高いです。しかし品質が優れています。長期的に見ればコストパフォーマンスが良いです。多くのお客様に選ばれています」
島根県の「やさしい日本語の手引き」では、文章を短く区切ることで、外国人が一つ一つの情報を整理しながら理解できるようになると説明されています。
曖昧表現を排除する
日本語特有の曖昧表現は、外国人にとって最も理解が難しい要素の一つです。
問題のある表現:
- 「結構です」「いいです」→YESなのかNOなのか不明
- 「ちょっと難しいです」→具体的にどう難しいのか?
- 「なるべく早く」→いつまでに?
- 「だいたい100メートル」→正確には何メートル?
改善例:
- 「はい、大丈夫です」または「いいえ、できません」
- 「人数が足りないので難しいです」
- 「3月15日までに完成してください」
- 「約100メートルです」または「90メートルから110メートルです」
かる・けるの調査によると、「くらい」「ほど」「だいたい」などの表現は情報の具体性を損ない、外国人を混乱させる要因となるとされています。
オノマトペ・カタカナ語の使い方
日本語特有の擬音語・擬態語(オノマトペ)は、外国人にとって理解が困難です。MEIKOGLOBALの調査では、「イライラする」「メラメラ燃える」などの感情や擬態、擬音を表すオノマトペは日本語特有の表現だと指摘されています。
避けるべき表現:
- 「バタバタしています」→「忙しいです」「時間がありません」
- 「ドキドキします」→「緊張しています」「心配です」
- 「サクサク進めましょう」→「効率的に進めましょう」
カタカナ語の注意点: カタカナ語は英語に見えても、実は和製英語で意味が異なる場合があります。
- 「アポ」→「appointment(アポイントメント)」と正式に言う
- 「リスケ」→「reschedule(リスケジュール)」または「日程変更」
- 「コンセンサス」→「合意」「同意」
複雑な商談や契約交渉では、いくら分かりやすい日本語を心がけても限界があります。特に法的な条項、技術的な仕様、財務的な詳細など、専門性の高い内容を正確に伝える必要がある場合、専門的な通訳サービスの活用が不可欠です。プロの通訳者は、言葉の意味だけでなく、文化的なニュアンスや業界特有の慣習まで理解しているため、重要な局面での誤解を防ぎ、ビジネスを成功に導くことができます。
シーン別・実践テクニック
ここでは、ビジネスシーンごとに具体的なコミュニケーション技術を解説します。
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会議・プレゼンテーション
会議やプレゼンテーションは、多くの情報を正確に伝える必要がある重要な場面です。
準備段階:アジェンダの事前共有
会議の前に、議題と流れを日英併記で共有することで、外国人参加者が内容を予習でき、当日の理解度が大幅に向上します。
【会議アジェンダ / Meeting Agenda】
日時:3月15日 14:00-15:00
1. 第1四半期の売上報告(Sales Report for Q1)
2. 新製品の開発状況(New Product Development Status)
3. 次回の予定(Next Meeting Schedule)
話し方:スライドと口頭説明の同期
プレゼンテーションでは、シンプルでわかりやすい表現を用い、聞き手が内容をスムーズに理解できるよう配慮することが重要です。ベルリッツの調査によると、海外では話し手に理解させる責任があると考えられることが一般的で、分かりにくいプレゼンは価値が低いと判断されるとされています。
実践例:
- 「次のページを見てください」(スライドを変えながら)
- 「この グラフは 売上の変化を 示しています」(ゆっくり、区切って)
- 「ポイントは 3つ あります。1つ目は…」(数字で明示)
質疑応答:質問を復唱して確認する
質問を受けたら、まず内容を復唱して確認することで、誤解を防げます。
- 質問者:「このシステムはいつ導入しますか?」
- 回答者:「いつ導入するか、という質問ですね。4月1日に導入します」
文化的配慮:発言しやすい雰囲気づくり
- 欧米系の参加者:積極的な発言を期待される文化。「何か意見はありますか?」と積極的に聞く
- アジア系の参加者:指名されるまで発言を控える傾向。「田中さん、どう思いますか?」と個別に指名する
日常業務のやり取り
日常的な指示出しや依頼の場面では、明確で具体的な表現が求められます。
指示出し:具体的な行動を明示する
悪い例:
- 「これやっといて」(何を?いつまでに?)
- 「適当に進めて」(どのように?)
良い例:
- 「この資料を明日の午後3時までに作成してください」
- 「このデータを確認して、間違いがあれば教えてください」
依頼:疑問形を避ける
日本語では「できますか?」という疑問形で依頼することが多いですが、これはYES/NOの質問と誤解される可能性があります。
悪い例:
- 「この仕事、できますか?」→能力を問われていると感じる
良い例:
- 「この仕事をお願いできますか?」
- 「この仕事を手伝っていただけませんか?」
確認:相手の理解度を確認する
避けるべき表現:
- 「分かりましたか?」→相手を子供扱いしているように聞こえる
推奨される表現:
- 「何か質問はありますか?」
- 「説明が分かりにくい部分はありますか?」
- 「もう一度説明しましょうか?」
締め切り設定:具体的な日時を指定
日本的な「なるべく早く」「できるだけ早めに」という表現は避け、具体的な日時を指定します。
- 「3月20日の午後5時までに提出してください」
- 「今週の金曜日までに確認してください」
メール・チャットコミュニケーション
書面でのコミュニケーションは、後から見直せるため特に重要です。
件名:具体的に
悪い例:
- 「打ち合わせの件」
- 「ご確認ください」
良い例:
- 「3月15日の予算会議について」
- 「新商品カタログの確認依頼(3月20日まで)」
本文構成:要点を箇条書きに
長い文章ではなく、箇条書きで情報を整理します。
山田さん
お疲れ様です。鈴木です。
明日の会議について、以下の3点を確認してください。
1. 時間:3月15日 14:00-15:00
2. 場所:第1会議室
3. 資料:売上報告書を持参してください
よろしくお願いします。
鈴木
漢字使用:ふりがな併用または簡単な漢字に
日本語能力試験N3〜N4レベル(中級)の外国人は、複雑な漢字の理解が難しい場合があります。
- 「会議(かいぎ)」
- 「書類(しょるい)」
- 重要な専門用語には括弧で英語を併記:「見積書(Quotation)」
返信期限:明示する
悪い例:
- 「ご確認ください」
良い例:
- 「3月10日までにご確認ください」
- 「今週中に返信をお願いします」
ランチ・社交の場
カジュアルな場面でも、外国人とのコミュニケーションは文化交流の機会です。
スモールトーク:共通話題から
- 「今日は暑いですね」(天気の話)
- 「このラーメンは美味しいですね」(食事の話)
- 「週末は何をしましたか?」(簡単な質問)
文化的話題:日本文化を説明する機会
外国人は日本文化に興味を持っていることが多いため、自然な会話の中で説明できます。
- 「『いただきます』は食事を始める前に言う言葉です」
- 「日本では名刺を両手で渡します」
質問の投げかけ:相手の国の文化についても聞く
一方的な説明だけでなく、相手の文化についても興味を示すことで、対等な関係が築けます。
- 「あなたの国では、どうですか?」
- 「この習慣は珍しいですか?」
言葉の練習機会:気軽に訂正し合える関係構築
ランチなどのカジュアルな場面は、お互いに言葉を訂正し合える良い機会です。
- 「日本語では『すみません』より『ありがとう』のほうが自然ですよ」
- 「その言葉、もう一度教えてください」
社内マニュアルや業務フロー資料を多言語化する際は、プロの翻訳サービスが効果的です。特に業界特有の用語や社内独自のプロセスを正確に伝えるには、専門知識を持つ翻訳者の支援が不可欠です。単なる言葉の置き換えではなく、外国人社員が実際の業務で使える形に「ローカライズ」することで、教育コストの削減と業務効率の向上につながります。また、やさしい日本語への書き換えサービスを提供している専門会社もあり、社内コミュニケーションの改善に役立ちます。
文化を織り交ぜたコミュニケーション
言葉だけでなく、文化的背景を理解することで、より深いコミュニケーションが可能になります。
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日本的概念の説明テクニック
日本特有の表現を外国人に説明する際は、文化的背景とともに伝えます。
「おつかれさまです」の説明
この言葉には複数の意味があり、外国人にとって混乱しやすい表現です。
- 朝:「Good morning + Let’s work hard today」(おはよう+今日も頑張りましょう)
- 夕方:「Good job today + Thank you for your work」(今日もお疲れ様+仕事ありがとう)
- すれ違い時:「Hello」(挨拶)
「よろしくお願いします」の多様な使い方
状況によって意味が変わるため、具体的に説明します。
- 初対面:「Nice to meet you」(はじめまして)
- 依頼時:「Thank you in advance」(前もってありがとう)
- 締めの言葉:「I’m counting on you」(頼りにしています)
「空気を読む」文化の明示化
日本では暗黙の了解で進むことが多いですが、外国人には明示する必要があります。
- 「会議で反対意見がない場合、賛成と理解されます」
- 「上司が先に帰らないうちは、部下も帰りにくいです」
これらの「言外の意味」を明示することで、外国人が職場の雰囲気を理解しやすくなります。
相手の文化を理解する姿勢
一方的に日本の文化を押し付けるのではなく、相手の文化背景も理解する姿勢が重要です。
直接的表現 vs 間接的表現
- 欧米:直接的な表現が好まれる(「No」をはっきり言う)
- 日本・アジア:間接的な表現が多い(「ちょっと難しいです」=「できません」)
この違いを理解し、相手の文化に合わせて調整します。
時間感覚の違い
- 日本:時間厳守、5分前行動
- 一部の国:10-15分の遅刻は許容範囲
ビジネスでは日本の時間感覚を説明しつつ、文化的な違いを理解する姿勢を示します。
階層構造への意識差
- 日本:上下関係が明確
- 欧米:フラットな組織文化
外国人パートナーには、「日本では上司への報告が重要です」と明示的に伝えます。
相互理解のための対話促進
- 「あなたの国では、どのように進めますか?」
- 「このやり方で問題ありませんか?」
- 「もっと良い方法があれば教えてください」
このような質問を投げかけることで、双方向のコミュニケーションが生まれます。
相手の文化を取り入れる「異文化フュージョン」の実践
日本語をベースにしながら、相手の文化的要素を取り入れることで、より効果的なコミュニケーションが実現できます。
アメリカ人パートナーとの会議:結論を先に述べる
アメリカのビジネス文化では、結論を先に述べることが一般的です。
- 日本式: 「先月の売上状況を分析しました。その結果、いくつかの課題が見つかりました。そこで、新しい戦略を考えました」
- フュージョン式: 「結論から言います。新しい販売戦略を提案します。理由は、先月の売上分析で課題が見つかったためです」
中国人パートナーとの交渉:面子を重視した伝え方
中国文化では「面子」(メンツ)が重要です。
- 避けるべき: 「この提案は間違っています」(人前で否定)
- 推奨される: 「この提案は良いと思います。さらに改善するために、少し調整しませんか?」(肯定してから提案)
よくある失敗例と改善策
実際のビジネスシーンでよくある失敗例と、その改善方法を紹介します。
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失敗例①:「ご検討ください」が伝わらない
「ご検討ください」は丁寧な表現ですが、具体的に何をすべきか不明確です。
改善策: 「この提案について考えてください。意見があれば3月15日までに教えてください」
失敗例②:時間指定の曖昧さ
「10分前には集合してください」という表現は、いつの10分前なのか不明確です。
改善策: 「会議は14:00に始まります。13:50までに会議室に来てください」
失敗例③:二重否定の使用
「悪くないですね」という表現は、良いのか悪いのか分かりにくいです。
改善策: 「良いですね」「とても良いです」と肯定的に表現する
失敗例④:省略語の多用
「明日のMTGのアポ、リスケできる?」という文は、省略語だらけで理解困難です。
改善策: 「明日の会議のアポイントメント(約束)を、別の日に変更できますか?」
チェックリスト:自己確認用の5項目
メールや文書を送る前に、以下をチェックしましょう:
- 主語は明確か?
- 一文は短いか(30文字以内が目安)?
- 曖昧な表現(ちょっと、なるべく等)を使っていないか?
- 締め切りや日時は具体的か?
- 専門用語や省略語に説明をつけたか?
まとめ
わかりやすい日本語を話すことは、相手への敬意の表れです。外国人ビジネスパートナーに伝わる日本語を話すことで、業務効率が向上し、信頼関係が深まります。
外国人雇用相談室の調査によると、「やさしい日本語」を使って会議を行うと、外国人従業員はより多くの内容を理解でき、自分の考えを発信することが可能になり、議論が活発になれば新たなイノベーションにつながる可能性があるとされています。重要なのは、一方的なコミュニケーションではなく、双方向の改善です。定期的にフィードバックを求める姿勢を持ちましょう。
- 「私の日本語は分かりやすいですか?」
- 「もっと分かりやすく説明する方法はありますか?」
- 「どんな日本語が難しいですか?」
このような質問を投げかけることで、継続的にコミュニケーションを改善できます。また、複雑な商談や重要な交渉の場面では、専門的な通訳・翻訳サービスを適切に活用することも、ビジネスを成功に導く賢明な選択です。
外国人パートナーとの良好な関係構築は、一朝一夕にはできません。しかし、本記事で紹介したテクニックを実践し、相手を理解しようとする姿勢を持ち続けることで、必ず成果が現れます。今日から、伝わる日本語を意識してみませんか。
- 内定ブリッジ「やさしい日本語とは?言い換える方法やコツをわかりやすく紹介」
- 豊橋市多文化共生・国際課「外国人に分かりやすい・伝わりやすい日本語マニュアル」
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- ルネサンス日本語学院「外国人社員へのビジネス日本語研修で押さえておきたい教え方のコツ」
- 島根県・しまね国際センター「外国人に伝わる日本語 やさしい日本語の手引き」(df)
- かる・ける「外国人が難しいと感じる日本語の例文を表現の特徴別に一挙紹介」



















