
エクスレバン
これまで渡航した国は40カ国以上 大学時代から国際経済を学び、現地に赴いて調査を行ったり、政治や経済について執筆活動を行っている。趣味はサーフィンと妻とショッピング。コロナ禍が終わりを迎えるなか、今後は中東やアフリカ方面への現地取材を検討中。
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6月21日、トランプ米大統領はイラン領内の核施設であるナタンズ、フォルドゥ、イスファハンに対する米軍の空爆を発表しました。この攻撃について、トランプ氏はホワイトハウスでの演説で「圧倒的な軍事的成功」と称し、イスラエルと共同でイランの核開発計画を阻止する決意を示しました。しかし、この大胆な軍事行動は、中東情勢を一層緊迫化させる恐れがあります。

攻撃の背景と目的

トランプ政権の今回の攻撃は、イスラエルとイランの長年にわたる対立の文脈で理解する必要があります。
イランは核開発を進めているとされ、国際社会から厳しい監視を受けてきました。特にイスラエルは、イランの核武装を自国の存亡に関わる脅威とみなしており、繰り返し軍事行動を警告してきました。トランプ氏は、2018年のイラン核合意(JCPOA)からの離脱以降、イランに対して最大限の圧力を示してきましたが、経済制裁や軍事的威嚇を通じてイランを抑え込もうとしてきました。今回の攻撃は、イスラエル・イランの対立に米軍が直接参加する形で実施され、イランの核施設を無力化する狙いがあったとされています。
イラン側は、攻撃を受けたナタンズ、フォルドゥ、イスファハンの施設に「汚染の兆候はない」と主張し、被害の詳細を明らかにしていません。一方で、トランプ氏は「イランの主要核施設は完全に破壊された」と強硬な姿勢を崩していません。
この情報戦の背後には、両国が自国民や国際社会に対して自らの正当性をアピールする意図が見て取れます。
中東情勢のさらなる緊迫化
この攻撃は、中東地域の不安定さをさらに加速させる可能性があります。イランは報復を警告しており、過去の事例から、イランが支援する民兵組織を通じて、間接的な反撃に出る可能性が高いと思われます。例えば、レバノンのヒズボラやイラクの親イラン民兵組織が、イスラエルや米国の軍事施設を標的にする恐れがあります。
特に懸念されるのは、中東各国に点在する軍事施設への攻撃の連鎖です。米軍が存在するサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、イランからの報復攻撃の標的となり得ます。2019年のサウジアラビアの石油施設への攻撃では、イランが関与したとされるドローンとミサイル攻撃が大きな被害をもたらしました。今回の米軍の直接介入は、イランにとって「越えてはならない一線」を踏み越えた行為と映る可能性が高く、同様の攻撃が再び発生する危険性があります。
米国施設を狙ったテロのリスク
さらに深刻なのは、米国関連施設を標的としたテロのリスクの増大です。中東各地には、米軍基地や大使館、民間企業など、米国のプレゼンスが広く存在します。イランやその同盟勢力は、過去にも米国権益を攻撃することで報復を行ってきました。
例えば、2020年のイラン革命防衛隊司令官ソレイマニ氏の暗殺後、イラクの米軍基地がミサイル攻撃を受けた事例があります。今回の核施設攻撃は、それ以上の規模と影響力を持つ行動であり、報復の規模も拡大する可能性があります。
また、テロの脅威は中東に留まらず、欧州やアジアの米国関連施設にも及ぶ恐れがあります。過激派組織がこの機に乗じて反米感情を煽り、単独犯や小規模グループによるテロを扇動する可能性も指摘されています。
国際社会の反応と課題
国際社会の反応は分かれています。イスラエルはトランプ氏の決断を支持し、核の脅威からの保護を歓迎しています。
一方、中国やロシアは、米国の軍事行動を「国際法違反」と非難し、国連安全保障理事会での議論を求めています。欧州諸国は、軍事衝突のエスカレーションを避けるため、外交的解決を模索する姿勢を示していますが、具体的な仲介案はまだ見えていません。
今後の課題は、軍事衝突の連鎖をいかに抑えるかです。イランが報復に出れば、イスラエルや米国がさらに反撃し、全面戦争に発展するリスクがあります。国際社会は、緊張緩和のための対話の場を早急に設ける必要があります。
また、IAEAによる被害調査や、核合意の再構築に向けた交渉が、長期的な安定化のカギを握るでしょう。