勝ち組の新法則、「コロナ終息+続く円安=海外進出」

65.5%が「2022年の業績は黒字になる」と回答したのは、海外に拠点を置く日系企業。6割以上が「円安のために業績がマイナスになった」と語った同年の日本拠点企業とは業績の傾向、企業戦略に大きな違いが出ています。「円安は日本経済にとってプラス」と長い間考えられていましたが、原料費・燃料費の値上がり、日本製品の世界市場シェアの衰退などから、円安が日本経済を苦める状況となっています。
一方、海外拠点日系企業では、コスト削減に対して身軽で迅速な対応をしています。市場拡大が見通せる進出国での日系企業の動向をジェトロの「2022年海外進出日系企業実態調査」を参考にご紹介しています。
また、海外進出の各ステップで無料相談をしてくれる行政機関、資金調達に利用できる制度についてもご紹介しています。海外進出のステップはシンプルで、協力者も多数いるようです!

「コロナ・円安」日本経済の過渡期となった2022年

2022年3月28日、円相場は6年7か月ぶりに1ドル125円の円安となりました。円相場はその後も低下が続き、半年後の2022年10月、1ドル147円を記録。世界的に有名な輸出企業の多い日本経済にとって、「円安は日本経済にとってプラス」と長い間考えられていましたが、現在はその通説が変わろうとしています

【表】日本円対USドル、為替レートの推移
出典:世界のネタ帳 (2023年1月23日)

「円安は日本経済にとってプラス」のはずでは?

円安が日本経済にとって有利とされていたことには、二つの理由があります。一つは日本円で価格が設定されている場合、海外での価格が引き下げられるために競争率が高くなること。二つ目は、価格が外貨で設定されている場合、海外売り上げが日本円に換算された時に売り上げ額が増加することです。しかし、帝国データバンクの企業業績調査 (2022年8月)では6割以上の企業が「業績がマイナスになった」と報告しました。

北澤Nozi

日本拠点企業と海外拠点の企業では、ほとんど正反対の経済状況に置かれていることが分かりました。まずは日本拠点企業の実態調査を見てみましょう。

【表】円安による業績への影響
参考:帝国データバンク|円安による企業業績への影響調査 (2022年8月)

なぜ日本企業は今、円安を味方にできないのか?

その理由について、帝国データバンク調査、中小機構調査、UBSの分析を元に3つの主な理由をまとめました。

理由①「コスト負担額の増加」

帝国データバンクの調査で「円安がマイナスとなった」と答えた事業の約8割が、その理由をコスト負担の増加としています。そのうち、「原材料の価格上昇によるもの」が79.4%、「燃料・エネルギーの価格上昇によるもの」が73.6%でした。また、約4割の事業が「コストを販売・受注価格に転嫁していない」と回答しました。さらに、約1割は「コストを販売価格に転嫁した所売上が減少した」という円安・負のスパイラルに陥っています

理由②「海外現地生産の拡大」

1980年代以降、日本の輸出企業の多くが生産拠点を米国、メキシコ、中国などの海外に製造拠点を移しました。日本国内に最終組み立て工場がある場合は円安が競争力を上げることに繋がります。しかし生産拠点の移管が拡大された現在は、円安がプラスに反映されないという状況が起こっています。「大企業ほど円安がプラスになる」と言われていますが、2022年の株価のデータはその予想に反していることを表しています。

【表】大型株式指数と日経平均株価
出典:UBS|日本株式 (2022年9月)

理由③「日本が世界に於ける海外市場シェアの減少」

80年代後半には世界の半分以上のシェアを持っていた半導体を始め、過去10年間で携帯電話、PC、薄型テレビなどのテクノロジー製品も衰退しています。円安になっても市場を取り戻せていないという状況が今後も続く可能性が多いにあります。

【表】日本の主なICT産業の世界市場シェア
出典:総務省|我が国ICT産業の世界的な位置付けの推移 (令和3年版)

円安を味方につけた、4.6%の企業は何故勝てたのか

先に挙げた帝国データバンクの調査で、円安が自社の業績にプラスの影響を与えた、と回答した企業は4.6%でした。プラスとなった理由として一番多かった回答は「販売価格の低下」(26.3%)、その次に「海外事業の円ベース利益が増えた」(22.7%)となりました。調査では、海外での販売や海外事業の円ベースの利益増加は大企業を中心に現れている、としています。

【表】円安で業績が上がった理由
出典:帝国データバンク|円安による企業業績への影響調査 (2022年8月)
北澤Nozi

円安を味方につけた4%の企業の2つの勝因はどちらも、海外での販売促進に起因することがわかりました。しかもそれは企業規模が大きな会社でなければ、チャンスを掴むのは中々難しいようです。これまでの結果と、円安が続く予測を考慮し、海外進出への想いを新たにする方が多いのではないでしょうか。海外拠点企業の動向を見ていきましょう。

海外に拠点のある日本企業への円安の影響は?

先の「円安で業績が上がらない理由」について、製造拠点が海外に移管されたことが挙げられていました。それらの海外に拠点を持つ企業は2022年、どのような業績を残しているのでしょうか?ジェトロが発表した「2022年度海外進出実態調査」を参考に、海外進出をしている企業の動向について調べてみましょう。 (データは製造業と非製造業を含みます)。

世界全体の平均、アジア・オセアニア圏、米国、中東、アフリカの4つの地域から海外進出している企業の状況についてまとめました。「円安の影響で売上がマイナスになっている」と回答した日本に拠点を置く企業とは正反対の結果が出ました。

【表】海外進出日系企業KPI
出典:ジェトロ|2022年海外進出日系企業実態調査
全世界編, アジア、オセアニア編, 北米編, 中東編, アフリカ編

「2022年の営業利益が黒字になるか」という質問をされた7,000社余りの会社の64.5%が「黒字になる」と回答しています。「2022年の売上が前年よりも改善される」と判断した地域はありませんが、全ての地域で約半数の企業が今後1〜2年に事業を拡大する計画を立てていることから、業績が上昇していないものの、将来に明るい展望を持っていることがわかります。

特にアフリカでは、「赤字を見込む」企業が約4分の1と最も高い数値であるにも関わらず、「事業を拡大する」数値も最も高く、しかも前年よりも増加しています。コロナ以前ほどの成長には及ばないものの、海外に進出した企業は円安の影響を受けず、コロナ終息によるビジネスの回復し始めていること、市場の拡大と進出国の成長が事業の成功を確信させています。

海外拠点企業はコスト削減に対して身軽に対応

コロナの影響によるサービス業の激減、製造部品の不足、物流の低下、さらにロシアのウクライナ侵略に起因する原料費と燃料費の上昇による「コスト削減」は、目下世界共通の課題です。そんな中、海外進出企業でサプライチェーンの見直しを既に行い、対策を講じた企業は約4割。調達、原材料・部品、在庫量の見直しなど、その他の対策も推進しています。

一方、日本拠点企業で「対策を講じた」と答えた中小企業は12%に留まりました。事業の方向性と行動力に大きな差が見られます。

海外進出企業が講じた対策には、調達、または販売先を「日本から移行する」という対策が目立っています

出典:ジェトロ|2022年海外進出日系企業実態調査、全世界編

それに対し、在日本企業では「取れる対策はない」「取る必要がない」「対策を考えていない」と回答した企業が合計で約7割に及んでいます

このデータからは、海外進出した企業が日本の購買力、競争力の低下を見極め、他国での調達・販売をすることにより自社の存続を確保しようという動向が見て取れます。

北澤Nozi

海外拠点企業の、コスト削減に対する迅速な対応と積極的な取り組みと日本拠点企業のコントラストが激しいですね。海外拠点企業では、進出国・地域の将来性を希望に持っていることが理由の一つと言えそうです。また日本では、特に大企業だと、仕組みや慣習を見直し、改革することが難しいのではないかと思います。海外だとそれが思い切ってできる、という背景があるのかもしれません。

世界共通の課題と、それぞれの地域での課題

ジェトロの報告で、コスト削減の他に大きく取り上げているのが「人権への取り組み」、「脱炭素化への対応」についてです。

「人権への取り組み」経営課題意識、59.8%

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」成立以降、日本を含む20カ国以上で行動計画(NAP)が策定されました。それを受けて 日本政府は2022年9月、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しています。

欧州では「人権デューディリジェンスの法制化」、米国では「強制労働に依拠する製品の輸入を差し止める規制強化」、「SDGs」が掲げられ、企業の課題は大きく、労働条件の見直しは経営にも大きく影響します。

顧客からの要求、納品先から人権方針への準拠を求められたことがある企業が目立ちます。その割合は、人権の法制化が進んでいる欧州(40.4%)やオセアニア (38.7%)で高くなっています。特に英国、ドイツ、米国では製造業を中心に、平均を上回る数値が出ています。それに対し、人権デューディリジェンス(DD)を実施している企業は、全体の28.7%と、指摘されている数値よりも低いことがわかりました。

ジェトロの報告は、人権への取り組みについて『未対応は企業のレピュテーション(評判)を損ない、売上減に直結するリスクもあります。』とまとめています。

「脱炭素化への取り組み」経営課題意識71.3%。達成目標は?

製造業を中心に、比較的活発に取り組みが推進されているという結果が出ています。脱炭素化の取り組みを経営課題として意識している企業は7割以上ということがわかりました。地域ごとの結果では、 欧州主要国が上位を占めましたが、「すでに取り組んでいる」と回答したのは約半数に留まります。

取り組みの目標を掲げていない、という事実も浮き彫りになりました。取り組みの目標とする数値を設定している企業は全体の19.0%と2割以下です。製造業に於いても目標値を掲げる企業は3割弱、「経営課題として意識している」企業の半分にも達していません。

【表】排出削減や再エネ利用の数値的な目標の有無
出典:ジェトロ|2022年海外進出日系企業実態調査、全世界編
北澤Nozi

4割近くの企業が納品先から人権方針への準拠を求められ、人権DDを実施している企業が3割に満たない、というのは残念な結果です。脱炭素化への取り組みはサスティナビリティのひとつの項目に過ぎないのかもしれませんが、結果を見ると少し残念です。『人と環境を大切にするコミュニティーの一員』として進出国に喜ばれる企業であって欲しいと願います。そうでなければ、その企業のレピュテーションどころか、日本国のレピュテーションも危ぶまれます。

海外進出を本気で考える方を、日本政府が応援してくれてます!

海外進出を考えたい、でもどうやって始めたら良いかわからない、という方のために、一般的なステップをご紹介致します。各ステップで無料相談をしてくれる行政機関はいくつもあり、さらに支援金を受けられる制度、研修を受けられる制度、行政機関の主催するプロジェクトや展示会なども大変充実しています

海外進出について考え始めたばかり、という方には以下の記事がお勧めです。

① デスクリサーチで情報収集

  • 他社の事業事例を調査
  • 現地について情報収集
  • コストとプロセスの計画
  • 対象層を絞り市場規模を想定
  • 競合相手の商品、サービスの調査
  • パートナー会社を見つける

他社の事業事例と信頼できるデータを元に戦略を立て、対象となる市場を絞り込み、仮説を立てるまでを全て机上で行うことができます。上記のポイントを参考に調査を進めると、全項目の調査が終わる頃には海外進出を実現するための企画書が出来上がっているはずです

ネットリサーチで注意しなければならないのは、情報の信頼性です。インターネットの普及によって誰でも自由に意見を公言できるため、情報の精査が大変重要です。インターネットのブログから情報を得る場合は、そのメディアとライターの経験を理解して、その情報をどの程度参考にできるのかを判断することが必要です。

下記の記事では、信頼性の高いメディアを紹介しています。

② 専門家に相談して戦略を立てる

  • 海外進出先の基本的な情報、制度や規制を確認して進出の可否を判断する。
  • 貿易に必要なプロセス、リードタイム、コストを理解しリスク管理をする。
  • 書類とモノの動きを把握し、必要書類を正しく用意してビジネス展開をする。
  • 融資や専門家などの紹介を受けて、海外進出に不足する部分を補う。

経験豊富で確かな情報を提供する公的機関の海外進出支援を受けることで確実な情報を元に計画を進められるだけでなく、より早く海外進出の展開をすることができます。また、セミナーや展示会、規格など公的機関が中心となっている活動に参加することで、同じ目的を持った他企業との情報交換の場や、ビジネスが飛躍するチャンスに巡り会うこともあるでしょう。

下記の表は、海外展開準備段階に対する主要公的機関の支援を一覧表にしたものです。 各機関では、前の章でご紹介したジェトロの統計のような報告を定期的に行っているだけではなく、個別の相談に対応するサービスを提供しています

③ 現地情報収集で戦略を試す

  • 現地ローカル・現地市場調査会社を利用した情報収集
  • 現地視察
  • 展示会参加

日本で集められるだけ情報を集めたら、現地に足を運び市場を肌で感じたいと思われるでしょう。その現地視察を成功させるための秘訣が以下のOcieteの記事にまとめられていますので、是非ご参考ください。また、Ocieteでは通訳、翻訳の他に現地視察アテンドや市場調査に関してもご相談いただけます。

北澤Nozi

「ロコタビ」(locotabi.jp) のサービスをご存じですか?世界2,682都市に住む5万人の日本人と繋がることができる個人取引マーケットプレースです。UK、US、中国などでは海外進出に関する情報提供、現地での支援を提供する日本企業を見つけることは容易ですが、ビジネスチャンスの光るブルーオーシャンでは戦略の手がかりを掴むことが難しくなります。そこでこのロコタビを利用し、現地の情報に精通した日本人の助けを借りる企業が多くなっています。
筆者は2019年からロコタビさんにお世話になっておりますが、大手日本企業から自動車、水回り用品、事務用品などの市場調査の依頼をいただいたことがあります。これから南アフリカに駐在するという方から生活、食事、医療などについて話を聞く、というミーティングも頻繁にご提供しています。サービスも使いやすく、無料で問い合わせなどが送れるので是非ご参考ください。

④ 資金調達・支援制度を利用して速度増加

ミラサポplusホームページ (経済産業省)

「事例ナビ」から中小企業の海外展開、海外の販路開拓のヒントとなる事例や様々な支援施策、支援機関が紹介されています。また、海外進出を多様な面でサポートするプログラムを展開しており、支援金のサポートもあります。

JAPANブランド育成支援等事業 (中小企業庁)

新商品開発、商品改良、ブランディング、テストマーケティング、販路開拓等、現地展開の支援を提供しています。現地のニーズをよく知る専門家が自社の商品の開発・改良のアドバイスをするというサービスです。補助金制度もあります。

新輸出大国コンソーシアム

「海外展開支援のワンストップサービス」と銘打つ、是非確認したいプログラムです。海外展示会、商談会等を活用した販路開拓支援プログラムです。コンソーシアムにはJETROを中心に、政府系機関、金融機関、商工会議所、商工会などの支援機関が参加しています。

政府の海外進出プロジェクトで資金を調達する

経済産業省の「クールジャパン」や、「JAPANブランド」などの企画に参加することができれば、資金調達と共に、ビジネス展開をスピードアップする相乗効果を期待することもできます。

まとめ

コロナ・円安の影響を受けて日本拠点企業が打撃を受けているのに対し、海外拠点企業の多くは事業を成功させ、将来にも明るい展望を持っていることがわかりました。もちろん業種によって状況は様々で、コロナの終息と円安の恩恵を受ける国内の旅行・宿泊業界にとって2023年は大きなチャンスの年となるでしょう。ここではご紹介できませんでしたが、越境ECビジネスも大変な盛り上がりを見せており、筆者も大ファンである海外進出応援プラットフォーム「出島~Digima~」さんでも、越境ECに関するイベントやオンラインセミナーを積極的に実施しています。

停滞する日本の経済を救い出すのは、日本企業の海外進出だと考えているのは企業だけではないようです。記事の最後にご紹介したように、海外進出に対する日本政府の対応は手厚く、戦略の相談から市場ニーズに併せた商品開発、資金調達に至るまでの支援を受けることができます。支援プログラムやプロジェクトを公的機関が合同で実施しているものもあり、数が多いのでネット調査では混乱してしまうところがあります。ご紹介した各機関に相談し、利用できる制度について質問することがお勧めです。

目まぐるしく変化する経済の動向と社会のトレンドを捉え、皆様のビジネスが大きく飛躍する「兎の年」となるように願っております。

海外とのビジネスをスタートする前に

海外とのビジネスを開始する前に、下記のようなお悩みはないでしょうか?

  • 現地の情報を調査・リサーチしたい
  • 現地に住んでいる方へ自社の製品・サービスに対して意見を聞きたい
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セカビズ編集部

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北澤Noziセカビズライター
通年20年の海外経験があり、南アフリカと日本を行き来する生活を送っています。市場調査員として南アフリカの企業と関わり、フィールドワークの中で見えてきた「今、南アフリカで起こっていること」を日本の方と共有する記事を書きます。興味のあることは人権、環境、ビジネス、社会問題、サブカルチャーなどのジャーナリズム。趣味は料理とキャンプです。